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ふたご研究シリーズ第2巻 パーソナリティ

山形 伸二・高橋 雄介 (編), 2023年,創元社

目次

まえがき
第1章 ビッグファイブの行動遺伝学的妥当性(山形伸二)
第2章 強化感受性理論に基づく2つの気質の遺伝環境構造(高橋雄介)
第3章 クロニンジャーの気質と性格の遺伝環境構造(安藤寿康)
第4章 グリット(やり抜く力)と勤勉性に関連する特性の遺伝環境構造(高橋雄介)
第5章 信頼と協力(平石界)
第6章 自尊心(敷島千鶴)
第7章 社会的態度(敷島千鶴)
第8章 解析手法の発展(尾崎幸謙)

 

 氏か育ちかという議論は古くから行われているが,近年では特性や行動などの形質には氏も育ちも(つまり,遺伝も環境も)関係していることが行動遺伝学によって明らかにされている。行動遺伝学は,遺伝子を共有している一卵性双生児のきょうだいと遺伝子を半分しか共有していない二卵性双生児のきょうだいの類似度を利用して,様々な形質を遺伝および環境でどの程度説明できるかを明らかにする。本書は,こうした行動遺伝学の立場から,種々様々なパーソナリティ同士の関連性や時間的安定性・変化が,遺伝や環境でどの程度説明できるのかについて論じられている。

 本書は,全8章で構成されており,いずれの章も著者たち自身の研究成果をベースにまとめられている。第1~7章ではBig Fiveの5因子構造の遺伝的妥当性(第1章),BISとBASの時間的安定性における遺伝の影響(第2章),クロニンジャーの気質と性格における遺伝的基盤の検証(第3章),グリットの構成概念妥当性の検証(第4章),一般的信頼における内的環境仮説の検証と協力の個人差における遺伝の影響(第5章),自尊心の時間的安定性における遺伝の影響(第6章),権威主義の継承における遺伝と環境の影響(第7章)に関する7つの実証的な研究知見が,第8章では行動遺伝学の限界点を克服する新たな解析手法が紹介されている。どの章も興味深く,その魅力について詳細に語りたいところではあるが,紙幅の都合上,その全てを綴ることはできないため,ここでは各章の内容を通して筆者が考えた本書の魅力について三つの観点からまとめたいと思う。

 第一に,行動遺伝学に馴染みのない読者にも理解できるように,随所で工夫が施されている点で非常に魅力的である。行動遺伝学の初学者である筆者は,本書を読むと決めた時に,入門書さえ読んでいないのに理解できるだろうかと一抹の不安を抱えていたが,その不安は全くの杞憂に終わった。本書では,たんに行動遺伝学的な視点からパーソナリティの関連性や時間的な安定性・変化について研究知見の紹介,議論の展開が行われるだけではなく,行動遺伝学ではどこまでのことが明らかにできるのか,あるいは行動遺伝学の手法を用いてパーソナリティについて研究することにはどのような利点や強みがあるのかが具体的に説明されている。そのため,初学者に対してもなぜ行動遺伝学的な視点がパーソナリティ研究において重要であるかが分かりやすい構成となっている。行動遺伝学に興味があり,これから学びたいと考えている読者のみなさまには本書をぜひ一読していただきたい。

 第二に,いい意味で行動遺伝学に対するハードルを下げてくれることも本書の魅力である。筆者は,双生児という限られた調査協力者にアクセスし,データを取集する行動遺伝学の研究は人脈や膨大な時間が必要な敷居の高いものであり,誰にでも実施できるものではないと考えていた。しかし,本書の第4章では,非常に簡単な4つの質問を用意することで,オンラインで双生児を対象とした調査が実施可能であることが紹介されている。工夫次第で誰もが双生児研究を始めることができるという事実に,筆者は衝撃と感銘を受けた。興味を持った方はぜひ本書を手に取って調査の手続きについて確認してほしい。

 第三に,(本書のまえがきでも触れられているが)章によって著者たちの文体が異なり,一冊で色々な味が楽しめる点も本書の魅力である。各章では,行動遺伝学の魅力,双生児を対象とした研究に取り組むうえでの苦労や難しさが著者たちの個性溢れる語り口で綴られており,学術書としての学びだけではなく読み物としての面白さも提供してくれる。本書は,各章で内容も独立であり,どの章から読み進めても十分に楽しめるかつ読み応えのある内容となっているが,この味わいを楽しむためにもぜひ全ての章を読み切ることをおすすめしたい。

 最後に,本書は現在出版されているふたご研究シリーズ全3巻の第2巻にあたる。本書を読み,行動遺伝学に興味を持った読者の皆さまには第1巻,第3巻も合わせて読むことをおすすめする。特に第1巻では,本書で省略されている行動遺伝学において重要な分析手法(e.g., 単変量遺伝分析,多変量遺伝分析,コレスキー分解)の詳細な説明が記載されている。もちろん,本書だけでも十分に読み進められるが,シリーズを通して読むことでより体系化された深い学びが得られるだろう。

 図書紹介の執筆にあたり,(株)創元社のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(文責:田口恵也)

(2024/3/1)