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松木祐馬(中部大学人文学部)

 第61回は,若手研究者の松木祐馬先生に,ご自身の研究についてご紹介いただきます。松木先生は現在,中部大学人文学部にご所属され,主に集団過程と態度,その個人差に関する研究を進められています。今回は,松木先生が研究を始められたきっかけや,現在の研究内容,今後の展望についてご執筆頂きました。

集団過程と態度,その個人差に関する研究

研究のきっかけ

 私は小さい頃から行事ごとが大嫌いでした。中でも運動会が最も嫌いで,幸か不幸か比較的足が速く小学生の時分はリレーの選手に選ばれていたものですから,毎年それが苦痛でした。中学生にもなると教師からの要請を断るという知恵(反骨心?)も芽生えるようになるのか,候補者に選ばれても断るという術を身に付けるようになりました。しかし,中学2年の時に担任の体育教師から「お前が出場した方がうちの組の勝率が上がるから出なさい」と強要された際,「自分の組が勝ったところで何の意味があるのか」と極めて不愉快な気持ちになったことを今でも覚えています。自分の組が勝とうが負けようが私には何の損得も生じないどうでも良いことだったからです。
 このような状況には高校や大学に進学した後も何度も遭遇し,その度に不可解に感じていましたが,TajfelとTurnerの社会的アイデンティティ理論について学んだ際,これまで不可解に感じていたことが自分の中で腑に落ちた感じがしました。つまり,「自分の組」という内集団に強く同一視していたのであろう先述の体育教師にとっては,「自分の組が勝つ」ことは正に「自分が勝つ」ことと同義だったわけですね。一方で,私のように内集団に対して同一視しにくい人も世の中にはたくさんいると思います。このような経験から,集団や社会的アイデンティティが人々の行動に及ぼす影響,ひいては集団同一視のしやすさに関する個人差について関心を持つようになりました。

現在の研究内容

 集団が人々の行動に及ぼす影響の中でも,集団内・集団間過程が人々の態度に及ぼす影響に特に関心を持ち,匿名掲示板で行われる集団討議を見る前と後とで閲覧者にどのような態度変容が生じるのかについて研究してきました。他にも,態度の変わりやすさに関する個人差や,種類を問わず内集団全般に同一視しやすい個人差などにも関心があり,これらを測定する尺度の作成や翻訳を行い,それらの個人差がどのようなアウトカムと関連するのかについても研究しています。また,態度や態度変容そのものだけでなく,態度対象にもフォーカスした場合の態度変容やそれと関連する変数についても扱っています。中でも,刑罰や厳罰に対する態度,偏見やステレオタイプなどに関する共同研究に携わっています。

今後の展望

 私は,元々は社会心理学領域を中心に研究に取り組んできましたが,現在は社会心理学領域で扱われることの多い構成概念の個人差研究についても関心を持っています。そのため,これまでの研究を発展させることに加えて,例えばパーソナリティと状況の関係など,社会心理学領域とパーソナリティ領域を横断するような協働的アプローチにも取り組んでいきたいと考えています(尤も,両領域を明確に区別することは難しいですが)。また,社会的に重要な対象に対してどのような態度が持たれているのか,その態度はどのような方法によってどのように変容し得るのかについても積極的に扱っていきたいと思っています。例えば,最近は児童相談所を対象とした共同研究に関わらせて頂いており,態度を専門とする視点から領域横断的な研究に関わっていきたいと考えています。

最後に

 この度は,このような研究紹介をさせて頂く貴重な機会を下さり誠にありがとうございます。お声がけ下さいました日本パーソナリティ心理学会広報委員会の先生方,並びに関係者の皆様に深く感謝申し上げます。