(小杉考司・清水裕士編著,2014年,北大路書房)
目次
導入編
1. 構造方程式モデリングとは
2. M‐plusの導入
基礎編
3. 回帰分析
4. パス解析
5. 探索的因子分析
6. 確証的因子分析
7. 潜在変数を含んだパス解析
8. 多母集団同時分析
応用編
9. 順序データのパス解析
10. カテゴリカル・制限従属変数に対する回帰モデル
11. 媒介分析
12. 項目反応理論
13. 潜在曲線モデル
14. 階層線形モデル,マルチレベル構造方程式モデル
15. 潜在混合分布モデル
16. ベイズ推定を用いた分析
Apendix
1. M-plusの購入,インストール
2. RとRのパッケージのインスト-ル
3. Rの導入
4. RStudio,R Commander,RzによるGUI環境
5. 本書のサンプルデータについて
索引
タイトルからわかるように本書は構造方程式モデリング(以下,SEM)を行う際のMplusとRの使用方法を中心に執筆されている。しかし,本書はMplusやRを使用している人々,あるいはこれから使用するつもりの人々にのみ有益なわけではない。MplusやRを使用していない人々,SEMをこれから学ぼうとする人々,SEMは使用していないが因子分析や重回帰分析などの分析をよく行う人など,様々な対象にとって非常に有益なものである。それは,以下の2つの理由による。
第一の理由は,初学者のことを考えた丁寧な説明が繰り返しなされていることである。ソフトウェアの使用方法については,これでもかというくらい丁寧な説明がなされている。例えば,Mplusのデータの読み込み方では,テキストファイルやCSVファイルの作り方から始まり,エラーメッセージの説明までを非常に丁寧に記述している。新しいソフトウェアを使用する際にはデータの読み込みでつまずく人も少なくないが,これほどまでに丁寧な説明がなされていれば怖いものはないだろう。また,その他の箇所においても新しいコードが出てくる度に,わかりやすく丁寧な説明が用意されている。MplusやRのようなCUIタイプのソフトウェアは,SPSSやExcel統計のようなGUIタイプのソフトウェアに比べて直感的に操作しにくく,コードが何を意味するかを理解しなければならない点で労力が必要となる。本書のようにコードが何を意味するかを丁寧に説明してあれば,コードの理解もスムーズになり,CUIタイプのMplusやRに苦手意識をさほど持つことがなく分析を進めていけるだろう。GUIタイプのソフトウェアを使用しているが,MplusやRを試したい人は,本書を片手にチャレンジすればスムーズな学習が行えると考えられる。
第二の理由は,多様な分析手法について,MplusやRとは切り離された一般的な説明がなされていることである。本書は,”モデルの説明→Mplusの使い方→Rの使い方”という流れを基本としながら構成されている。モデルの説明は非常に丁寧でわかりやすく,簡潔に記述されており,初学者でも何をどのように分析しているのかが明確にわかるようになっている。そのためMplusやRを使用しない人々にとっても,モデルの概要を理解するという点において非常に有益なものとなる。例えば,第11章で紹介されている媒介分析は多くの研究で使われている手法であるにも関わらず,日本語で説明された論文や書籍は少なかったが,本書では初学者にもわかるような丁寧に説明されている。特に,間接効果の検定法として従来用いられてきたSobel検定とともに2000年代になって一般的になってきたブートストラップ法についても説明している点は特徴的である。また,打ち切り回帰分析や潜在クラス分析などのように日本の心理学論文ではあまり目にすることのない分析手法の紹介,多くの人に馴染み深い因子分析における平行分析やMAP法といった因子数の決定方法の紹介,教育や集団,親密な関係などの領域で近年盛んに行われているマルチレベルSEMのモデルの概説などについて一般的な説明がなされている。これらの分析手法について理解するための第一歩として本書を手にすることは,MplusやRを使用しない人々にとっても有益であろう。研究手法の豊富さが研究計画の幅広さにつながると言われることを考えれば,本書は統計的な知識の修得だけではなく,自らの研究能力の向上に寄与するものであると考えることができる。
以上の理由から,本書はMplusやRを使用しない人々にとっても有益な書籍であると言える。最後に,評者自身は分析にRを用いており,SEMを行う場合には本書で紹介されているLavaanパッケージを使用している。Rを導入した当初はデータの読み込みでつまずき,SEMを行う適切なパッケージを見つけるのに試行錯誤をしていた。また,マニュアルの多くは英語であり,統計に明るくない評者はそれを理解するにも四苦八苦した。本書を通読しながら,自身がRやLavaanを導入した際,本書があればどれほど良かっただろうと実感した。このような体験と本書のわかりやすさを考えれば,著者の「構造方程式モデリングの勉強を始めようとして,この本を手にとった方がいるかもしれません。そういう人は大変ラッキーです。私は素朴に,うらやましいとさえ思ってしまいます。」(p2)という記述に強く同意することができる。MplusやRを始めようとしている人や現在SEMの学習をしている人は,このような「ラッキー」を味わってみるのはいかがだろうか。(文責:古村健太郎)
*本書評の執筆にあたり,北大路書房のご協力を賜りました。ここに深く御礼申し上げます。
(2014/2/28)