(木村玲欧(著),2015,北樹出版)
目次
第Ⅰ部 災害発生前・直後の心理や行動
第1章「わがこと意識」を身につけよう ―防災を意識的に学ばなければならないわけ
第2章「自分が助かる」ことから考えよう ―死なない・ケガをしないためのイメージづくり
第3章 なぜ人は逃げないのか ―「バイアス」という人間特性を理解する
第Ⅱ部 災害発生から10年間の心理や行動
第4章「心のブレーカー」を上げよう ―災害過程① 失見当
第5章「救助・救出」は自分たちでいう現実を直視しよう ―災害過程② 被災地社会の成立
第6章「避難所」は被災者にとってどんな存在かを知ろう ―災害過程③ 災害ユートピア
第7章「新しい日常」を取り戻そう ―災害過程④ 現実への帰還
第8章「長く続く生活再建」を乗り越えよう ―災害過程⑤ 創造的復興
第Ⅲ部 来たるべき災害に向けて
第9章「心を保つ・支える」ための原理と方法を学ぼう ―ストレスと心のケア
第10章「過去の災害を未来の防災へ」生かそう ―防災教育の最前線
おわりに ―防災を皆に広げ,次につないでいくためには
2011年3月11日に発生した東日本大震災は,未だ復旧・復興の見通しがはっきりしない状況である。巨大地震による津波災害と原子力災害という複合災害による影響は,想定外な大きさであり,長期の避難生活による心理的ケアの問題,復興住宅の問題,風評被害と,様々な課題を抱えている。
本書は,災害時の人間の心理・行動について考えていくテキスト本といえる一冊である。主に地震災害を対象に,1995年に発生した阪神・淡路大震災や2004年に発生した新潟県中越地震の事例が多く取り上げられており,事例をもとに「防災の基本」が学べるようになっている。
本書の大きな特徴は,著書も述べているように「防災教育の授業を受けている感覚」で読み進めていける点であろう。Ⅲ部・10章で構成されており,各章の最初には「学習目標」や「キーワード」が提示されている。章の最後には学習目標が達成できたかを確認する項目が設けられている。また,図表や写真が適度に盛り込まれており,「図〇をみてください」というような口語調で,図表の読み方についても詳細に解説されている。
第Ⅰ部は,「災害発生前・直後の心理や行動」として,これまでの災害を例に出しながら,防災を意識的に考えていく必要性がまとめられている。第1章では「わがこと意識」の大切さが述べてあり,災害・防災・減災の基本的な枠組みについて解説されている。第2章では,各災害の被害や死因,地震被害の影響と対策について取り上げている。「わがこと意識」を持った備えの重要性について考えさせられる章である。第3章では,人間が陥りやすいバイアスとともに,防災教育の重要さについて説明されている。実際に行われている防災訓練や緊急地震速報を利用した防災学習・訓練など,学校で利用されているプログラムが紹介されている。
第Ⅱ部「災害発生から10年間の心理や行動」では,災害発生から,被災者が生活を立て直し復興していく過程である災害過程について,時間軸で5つの段階に分け,その時期の心理状態や行動傾向を詳細に学べるようになっている。第4章・第5章では,災害発生後最初の100時間(数日間),第6章では災害発生後100~1,000時間(約2ヶ月),第7章では災害発生後1,000~10,000時間(約1年),第8章では災害発生後10,000~100,000時間(約10年)を扱っている。阪神・淡路大震災や新潟県中越地震を例に,継続的な調査結果や被災者の意見を入れながら,より現実的なこととしてイメージしながら理解できるように工夫されている。第7章では,帰還時期に必要になる公的な被災者支援制度についても取り上げている。支援を受ける際に必要な証明書や証明書発行のための被害認定調査など,持っておきたい知識である。第8章では,阪神・淡路大震災から5年目の神戸市民の声をもとに,生活再建課題7要素が挙げられている。さらに,各震災の「復旧・復興カレンダー」によって,生活再建までの復興モデルを提示している。災害からの再建には,時間を要することだけでなく,被災者の二極化や格差という問題が生じることが理解できる。再建の難しさを実感する。
第Ⅲ部「来たるべき災害に向けて」では,心のケア(第9章)と防災教育(第10章)について,具体的な事例を用いて説明されている。第9章では,子どもの発達段階に合わせた対応の仕方やストレスを抱えた人に接する際の姿勢等について,具体的に解説されている。「わがこと意識」を持って読んで欲しい章である。第10章では,学校における防災教育の現状や課題について,子どもたちにどのように防災教育を進めていくべきか,具体的に提案されている。防災教育の事例においては,プログラム・教材に関する資料が豊富に掲載されており,大変興味深い。さらに,資料の詳細を確認できるようにHP等が紹介されている。
「防災」は教員や教育に携わる人だけでなく,市民の一人として来たるべき災害に備えて意識しておくべき事項である。本書によって学習した知識と高められた「わがこと意識」を継続していくことが重要である。防災を考えていく際の1冊として,是非本書をおすすめしたい。(文責:佐藤史緒)
・本書評の執筆にあたり,北樹出版のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。
(2016/2/1)