(荘島宏二郎(編著),2017,ナカニシヤ出版)
目次
第1章 人間の性格は何次元か?─因子分析─
第2章 項目反応理論による心理尺度の作成
第3章 人を健康/不健康に分けるだけが尺度じゃない─GHQ への潜在ランク理論の適用─
第4章 一対比較法や順位法による反応バイアスの抑制─イプサティブデータの項目反応理論による分析─
第5章 外向的な人を内向的に,内向的な人を外向的にふるまわせると?─分散分析と交互作用─
第6章 自己愛の高い人は健康的なのか?─メタ分析─
第7章 道徳性教育カリキュラムをどう組めばよいか─非対称三角尺度法─
第8章 大学入試期間のストレス対処経験は情動知能の成長感を高める?─多母集団の同時分析と媒介分析─
第9章 ストレスの強さは人によって違う?─階層的重回帰分析と交互作用─
第10章 二人一緒ならうまくいく?─マルチレベル構造方程式モデリング─
第11章 学習方略の使用に対する学習動機づけの効果は教師の指導次第?─階層線形モデル─
第12章 遺伝と環境の心理学─高次積率を用いた行動遺伝モデル─
第13章 パーソナリティの変化と健康の変化の関係性の検討を行う─潜在変化モデルを用いた2 時点の縦断データの分析─
第14章 縦断データの分類─決定木および構造方程式モデル決定木─
統計的な分析手法はたくさん知っていて,それらを自由に使いこなせた方が良い。そして,学生や後輩に伝授できれば,なお良い。しかし,言うは易し行うは難しである。日進月歩で発展していく分析手法を拾い上げ,理解し,それらの利用可能性を探ることは,楽しい作業であるけれども容易ではない。特に,学部生や修士課程の大学院生は,心理学の知識を蓄積していくと同時に,それとリンクさせながら分析手法を習得していくとなると,大きな労力を伴うであろう。
そんな思いを持ちながら日々悩んでいる最中,「計量パーソナリティ心理学」を拝読する機会をいただいた。本書では,各章において筆者の方々の興味関心を主題としながら,その興味関心へのアプローチに適した分析手法を詳しく紹介している。そのため,本書は統計や分析手法の書籍というよりも,様々な心理学の知見を紹介している書籍のように通読することができた。例えば,第6章では自己愛の話題からメタ分析へ,第7章では品格教育の話題から非対称三角尺度法へ,第10章では冒頭の男女の会話から始まりマルチレベル構造方程式モデリングへ,第11章では学習方略の話題から階層線形モデルへと展開されていく。このような構成によって,身近な疑問や現象を研究にしていくという心理学のプロセスとその面白さがよくわかるようになっている。これらの各章の導入によって,研究の文脈から切り離すことなく,「知りたいことを知るための手段」という視点を持ちながら分析手法を学ぶことができる。また,学部生や大学院生にとっては,統計や分析手法の勉強を始めるのはややハードルの高い作業であろうが,心理学の内容をベースとしている本書であれば大丈夫という人は多いはずである。
加えて,他の書籍ではあまり取り上げられない,知りたいと思っていた分析手法が紹介されている点も特筆すべき点であった。例えば,第3章の潜在ランク理論,第4章の一対比較法,第7章の非対称三角尺度法,第13章の潜在変化モデル,第14章の構造方程式モデル決定木は,日本語の書籍では取り上げられているものが少ない。統計に明るくない紹介者は,日本語でこれらの分析手法を学べることに,ただただ感謝するのみである。また,これらの方法の多くは,一つ一つの項目が持つ情報量を吟味する手法であり,項目そのものの情報や項目間の情報を数値化,可視化できる。現状のある意味で定型化した方法(例えば,因子分析→平均値による得点算出)は,項目それぞれが持つ情報に注目しつつも,そのことに十分な意識が向けられてこなかったのかもしれない。このように既存の研究法の枠組みについて,改めて考えることもできるであろう(ただし,この印象は紹介者の不勉強に起因するかもしれない)。以上のように,本書では,様々な分析手法が心理学の文脈に根付きながら紹介されており,自身の有する研究法への考え方に新たな視点を与えてくれるように思われる。無論,比較的よく目にする第1章の因子分析や第5章の分散分析,第6章のメタ分析,第8章の媒介分析,第9章の階層的重回帰分析についても,心理学の文脈に基づいた解説がなされており,非常にわかりやすく,改めて得るものが多いことは言うまでもない。なお,本書は各ソフトウェアによる実行方法には触れられていないものの,ソフトウェアでの実行方法については伴走サイトでサポートされている。
今回,本書を通読して改めて感じたことは,本書の内容の多彩さである。14の研究テーマについて,14の分析手法が紹介されているという本書の構成からも,そのことは明らかである。本書の冒頭で書かれているように,パーソナリティは幅広い概念であり,その守備範囲も広い。その中で共通項として共有できるものの一つは,方法論であろう。それゆえ,本書はパーソナリティ心理学の枠組みだけではなく,様々な心理学の領域で共有されうるものである。また,多様な分析手法を持つことは,学問分野を越えて必要とされるものである。それゆえ,本書で紹介されている現象へのアプローチや分析方法は,心理学以外の学問領域と協働して研究を行っていく際に,心理学者の長所となるものであり,学問と学問をつなぐ接着剤のような役割を果たしうるのではないかと思わずにはいられない。まずは本書の内容を十分に理解し,その上で他の学問分野の人々と,現象へのアプローチや分析方法について議論を交わしてみたい。そのようなことにまで考えが及んでいく内容であった。
以上より,本書は本棚に1冊以上置いておくと得るものが大きい,オススメの書籍である。(文責:古村健太郎)
・図書紹介の執筆にあたり,(株)ナカニシヤ出版のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。
(2017/5/10)