(W.ミシェル,Y.ショウダ,O.アイダック(著)黒沢香・原島雅之(監訳),2010年,培風館)
目次
1章 パーソナリティ入門
2章 データ,研究法,研究手段
第I部 特性・特質レベル
3章 類型論と特性論
4章 特質の表出
第II部 生物学レベル・生理レベル
5章 遺伝とパーソナリティ
6章 脳,進化,パーソナリティ
第III部 精神力動的・動機づけレベル
7章 精神力動論 ―― フロイトの諸概念
8章 精神力動の適用と過程
9章 フロイト後の精神力動
第IV部 行動・条件づけレベル
10章 行動主義の考え方
11章 行動の分析と変容
第V部 現象学的・人間性レベル
12章 現象学的・人間性レベルの諸概念
13章 内面へのまなざし
第VI部 社会認知的レベル
14章 社会認知的アプローチ
15章 社会的認知プロセス
第VII部 各分析レベルの統合 ―― 全体としての人間
16章 パーソナリティ・システム ―― それぞれのレベルを統合する
17章 自己制御 ―― 目標追求から目標達成へ
18章 社会的文脈および文化とパーソナリティ
本書はパーソナリティの一貫性論争で有名なミシェルを中心として編纂されたIntroduction to Personality, 8th editionを邦訳したものである。序文において,パーソナリティを扱う研究は,パーソナリティの全体的構造ではなく,ある特定の一側面のみを扱ってきたことが指摘される。この問題について,本書では以下の6つのレベルの理論的・分析的側面を概観し,それらを統合的に理解しようと試みている。
第1のレベルは,特性・特質レベルである。第3章では,Allport,Cattell,Eysenckといった特性論者の研究や,特性レベルの研究の共通点について述べられ,その議論がBig Fiveへと発展していく。第4章では,一貫性論争と相互作用論について議論がなされる。すなわち,個人の行為や経験は,個人差と状況の力動的な相互作用によって表現可能であることが述べられている。
第2のレベルは,生物学・生理レベルである。第5章では,双生児研究を用いたパーソナリティや個人が経験する環境への遺伝的影響について概観されている。第6章では,BIS・BASや刺激欲求特性と脳の関連や生物学的治療に用いられる薬物の紹介,進化とパーソナリティの関連について述べられている。
第3のレベルは,精神力動的・動機づけレベルである。第7章では,フロイトの理論が概観される。第8章では,精神力動の理論に基づく測定法として投影法が紹介された後,抑圧や防衛について述べられる。第9章では,アンナ・フロイトやユング,アドラー,フロム,エリクソンの理論が紹介された後,愛着理論やコフートの理論が紹介されている。
第4のレベルは,行動・動機づけレベルである。第10章では,フロイトの理論を学習理論の用語とアイディアに置き換え,実験的に実証しようとしたDollardとMillerの研究が紹介されている。その後,古典的条件付けとオペラント条件付けの基本的な理論について述べられている。第11章では,行動の測定や行動を引き起こす刺激の査定について述べた後,情動反応や行動を変容させる方法が議論されている。
第5のレベルは,現象学的・人間性レベルである。第12章では,その人独特の主観的な世界を重視したロジャースの理論,人が能動的な存在であることを強調したケリーの理論が紹介されている。第13章では,他者の内的経験や主観的世界を測定しようとする方法について議論され,さらに個人の主体的経験を変容させる試みについて議論されている。
第6のレベルは,社会的認知レベルである。第14章では,パーソナリティ研究の社会的認知アプローチの先駆けであるBanduraとMischelの研究や,このレベルの理論に基づく測定法(e.g., IAT)や臨床的方法(認知行動療法)が紹介されている。第15章では,自己に関する知識体系である自己概念,自己スキーマ,自尊心について述べられている。その後,自らの能力や効力についての知覚について,自己効力感や学習性無力感などから議論されている。
最終的に,これら6つのレベルの理論的・分析的側面を統合的に説明できる枠組みが議論されている。第16章では,認知的・感情的パーソナリティ・システム(CAPS)が提案され,各レベルとどのように対応しているかが述べられている。さらに,発展的内容として,第17章では6つのレベルと様々な自己制御との関連について,第18章では文化とパーソナリティについて考察されている。
本書は,現在まで提出されている様々な理論がどのような歴史的背景を持っているか,理論同士がどのようにつながっているかをわかりやすく述べているという点で,優れた教科書であると言えよう。まさに,Introduction to psychologyという名の通りである。また,先述したように,本書は社会心理学や発達心理学,臨床心理学,生理学を含めた領域横断的な議論を体系的に統合しようと試みている。このような試みに触れることは,読者が自分の研究領域の立ち位置を考えたり,他の研究領域との関連について考えたりするきっかけとなるだろう。以上から,本書を通じて,読者は,パーソナリティ心理学の基本的な知識を学習するだけではなく,研究に対するよりマクロな視点についても学ぶことができると考えられる。(文責:古村健太郎)
*本書評の執筆にあたり,(株)培風館のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。
(2013/6/11)