(鈴木公啓 編,2012年,ナカニシヤ出版)
目次
1 パーソナリティとその概念および歴史
2 パーソナリティの諸理論
3 パーソナリティと相互作用論
4 パーソナリティと遺伝
5 パーソナリティと発達―青年期まで―
6 パーソナリティと発達―成人期以降―
7 パーソナリティと学校での関係
8 パーソナリティと友人関係
9 パーソナリティと親密な関係
10 パーソナリティと家族関係
11 パーソナリティと社会的認知
12 パーソナリティと自己意識的感情
13 パーソナリティと感情
14 パーソナリティと文化
15 パーソナリティと病理
16 パーソナリティと測定―質問紙法と投影法―
17 パーソナリティと測定―面接法と観察法―
文 献
索 引
『パーソナリティ心理学概論』(以下,本書)はパーソナリティの心理学の知見をまとめた本である。目次をみてもわかるとおり,非常に幅広いテーマが扱われている。無論,本のタイトルに「概論」と記されている以上,扱われているテーマが幅広いというのはむしろ自明ともいえる。従って,目を向けるべきはテーマの幅広さというよりも,内容の充実のほうにあろう。そこで,本書評では内容の充実に焦点を当て,キーワードを挙げることでより具体的に見ていくこととする。キーワードは「最新の知見のわかりやすい紹介」「初学者に向けた丁寧な内容」「さらなる学びへの配慮」という3点が挙げられる。
「最新の知見のわかりやすい紹介」という観点からは,本書がパーソナリティ分野における最新の知見を学ぶ上での一助となるよう配慮されているという点があげられる。いわゆる「教科書的な本」では,すでに学会や研究会ではお目にかからなくなった,古典と呼ばれる研究の紹介に多くのページが割かれる。無論,それは大いに意義あることだが,初学者がパーソナリティの最新の知見を学びたいと思った時に,専門書か雑誌にあたるしかなく,非常にハードルが高いのが実情であろう。本書は今年の学会にいけば口頭発表でお目にかかれそうなテーマや,ここ数年研究が盛んになされているような研究分野の最新の内容が分かりやすく紹介されている。だからといって,個々のテーマの基盤となる理論や学説の紹介がおろそかになっているかといえば,決してそうではない。しっかりと初学者が最新の知見を学びやすいように前提となる知識や理論の説明がなされ,その上でより高度な内容へといざなわれるように書かれている。副読本として古典がより詳細に記されたものが手元にあればより理解は進むであろうが,だからと言って本書の価値が損なわれることを意味するものではない。
「初学者への丁寧な内容」という観点からは,本書がパーソナリティ心理学をこれからまさに学ぼうする初学者に対してとても丁寧な作りになっているという点があげられよう。個々の章で取り上げられている研究は,引用先を見ると複雑な研究手法が組み合わさって産みだされている。しかし,本書は統計や観察法・インタビュー法などの知見が十分になくても,理解できるよう非常にシンプルな図表が取り上げられ,そして,内容もかなり噛み砕いて書かれている。必要な研究法などの知見や用語の説明はコラムなどでも取り上げられており,丁寧に読み進めていけば独学でパーソナリティ心理学の最先端の知見を得ることができよう。
「さらなる学びへの配慮」という観点からは豊富な引用文献が提示されているということが挙げられる。個別の研究はわかりやすさを優先しているため,どうしても調査の詳細な内容や研究手法,一部の統計分析の結果など初学者が目にしたとき,解釈に知識がいるような部分はそぎ落とされている。しかし,初学者が「この研究面白いな」と感じ,ゼミナールなどで自分のテーマとして研究したいと思うのであれば,より深く1つの文献を読み進めていく必要がある。従って,詳細な文献が紹介されていることはパーソナリティに関する知見を深めるために非常に配慮されているといえよう。ただ,初学者が自主的に引用文献に当たるというところまで行き着くのはなかなか難しい。そのため,できれば引率者とともに本書を読み進めるというスタイルが望ましいといえよう。
末尾になるが,私自身,本書を読み進めていく中で初めて見る興味深い研究や知見があった。自分の不学を恥じるとともに,授業の中で取り入れていきたいと強く思ったのも事実である。執筆者を見ると若手の研究者が並んでいる。若手の研究者が専門としている分野には,彼ら彼女らの若い感覚での現実的な課題や問題提起を入り口に研究の門をたたく。その意味で,個々の章の内容は現在正に問題になっていることを背景に感じることができるものであり,どれもとても生き生きとした知見が紹介されている。本書はパーソナリティ心理学を学ぶものだけでなく,教えるものとしても非常に参考となる一冊であると言えよう。(文責:竹内一真)
*本書評の執筆にあたり,ナカニシヤ出版のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。
(2013/7/31)