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心理学のための英語論文の基本表現

(高橋雅治, デイビッド・シュワーブ, バーバラ・シュワーブ 著, 2013年, 朝倉書店)

目次

1 心理学英語論文の執筆法
2 著者注 Author Note
3 要約 Abstract
4 序文 Introduction
5 方法 Method
6 結果 Results
7 考察 Discussion
8 表 Table
9 図 Figure
引用文献
索引

 

 本書は心理学英語論文を執筆する際の参考書であり,これから英語論文を執筆しようとする心理学や行動科学を専門としている学生,若手研究者を対象としている。本書ではAPAスタイルも解説しつつ,論文の各節のポイント,各節で頻繁に利用される文章パターンを示し,例文と共に紹介している。著者は本書でAPAスタイルの概要の理解と基本的文章パターンを参照すること,APAマニュアルで詳細な書式を調べること,これに加え,自身の専門領域の英語論文を参考にして専門用語の使い方を身に着けることを推奨している。 

 1章では心理学英語論文の執筆において,自然な英語表現を使いこなすための有効な方法や注意点,APAスタイルの概要がまとめられている。本書を読んだ一読者として,文責者は“英語論文を書きなれていない者は参考にする英語論文から表現を学ぶことが多いが,参考にする論文の継ぎ接ぎにならぬようくれぐれも留意しなくてはいけない”という点に感銘を受けた。
 目次の通り,2章以降は論文の各節で章が設けられている。各章の冒頭では,内容と書式に関するポイントがまとめられている。内容については,2章ではAPAが著者注を充実させることを勧めているが,内容と書式が細かく定められていることが述べられている。3章では要約だけで研究の内容を理解できる情報を記述する注意点,4章では序文にて研究の目的と必要性を納得させるためのポイントが挙げられている。5章では研究の追試を実施できるよう必要な情報を全て書くための必要性が論じられている。6章では結果は考察や結論の根拠を提供することを目的とし,募集時の参加者数や分析から除外された参加者数などの参加者の流れを正確に記述すること,統計では基本的情報はもちろん効果量や信頼区間などの情報も載せるべきであることが述べられている。7章では結果の評価と解釈を読者に呈示するための基本と議論展開のポイントを挙げている。8章では結果の理解と解釈,再解釈ができるよう必要な情報を表に載せること,9章では重要な事実を伝え本文を補強する図を作成する注意点がまとめられている。
 これらの内容は,英語論文に限らず論文を既にいくつか執筆している人にとっては既知の事柄(例えば,要約で「正確に」「簡潔に」など)が書かれているとは思うが,自身の論文がこれらのポイントを全て抑えているか,求められる情報を全て記述できているか,今一度考えさせられる。

 そして,各章の内容と書式を紹介した後には,論文の各節にて頻繁に利用される文章パターンと例文が掲載されており,この部分が各章の大部分を占める。これこそが本書の特筆すべき点である。これらの例文は心理学英語論文の全領域に渡って頻度の高い文章パターンを載せ,その後に実際の論文から引用して例文を掲載している。英語論文を書きなれていない者は,自身の研究領域の英語論文と辞書を片手に,適切な表現をひたすら調べながら作業を行うので単純な文章を書くにも時間が掛かる。しかし,この文章パターンを参考にすれば,その時間が大幅に短縮されるだろう。ほんの一部の例であるが,5章では心理検査について説明する25の文章パターンが紹介されている。本書があれば全て事足りるわけではないものの,これらを参考にすることによって,自身の研究で使用した心理検査についておおまかに説明することは可能である。

 総じて,本書は英語論文の執筆を試みる者にとって良い参考書となることは間違いないだろう。まずは1章とコラムを読むことをお勧めしたい。コラムでは日本人が犯しやすい誤りを紹介している。 (文責:薊 理津子)

*本書評の執筆にあたり,朝倉書店のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(2013/12/31)