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ウーマンウオッチング

(デズモンド・モリス(著),常磐 新平(訳),2007年,小学館)

目次

進化
頭髪











乳房
ウエスト

腹部
背中
恥毛
性器


参考文献
写真クレジット

 

 本書は,「裸のサル」,「マンウォッチング」,「ボディウォッチング」などの著者であり動物学者であるDesmond Morrisが女性の身体についてまとめたものである。身体に関する研究をする者ならば,分野を超えて,一度はMorrisの著書を手にとり自らの興味関心を先鋭化あるいは拡張するために用いているはずである。それほどまでにMorrisは身体を雄弁に語る。「まえがき」でMorrisは次のように述べている。これは医学書でも,心理学者の実験分析でもなく,自然な環境で,現実に見られる女性を賛美した,一動物学者が描く肖像画であると。本書ではやや誇張や文化的な誤解があるとも見受けられるものの,女性の生物学的な特徴,社会文化的要請,それらに対する女性の惜しみない努力が,時に楽しげに,時に苦しげに,描かれている。
 全22章で本書を構成したMorrisは,各章において,すべての女性が共有する,女性の身体に特有の部位の動物学的特徴を提示し,ついで,さまざまな社会がこうした動物学的特徴を修正して来た多様な方法を考察したと説明している。
 はじめの章に進化が置かれているのは,動物学者としてのMorrisの視点を明示するためだろう。ここでは,人間の身体に特徴的な形質としてネオテニー(幼児成熟)という進化過程について触れ,男女の性差が進化過程の中で生まれて来たか,そして,その進化により男女の相互補助的な関係性がいかに構築されてきたかを論じている。興味深いのは,男性にはネオテニー的特徴が身体的にはあまり現れないが,よりいっそう子どものような行動をすること,一方で,女性には精神的にネオテニー的特徴はあまり現れないが,よりいっそう子どものような身体的特徴をもつようになる,という真逆の特徴があることである。身体的なネオテニー的特徴という意味では,女性の身体は男性に比して高度に進化しているとされ続く章では,各々の構造と機能,役割について論じられている。
 ここで各々の章を一つずつ取り上げて説明するわけにはいかないが,例えば,「髪」についての章では,なぜ人間の髪は伸びるのかという点から議論が始まる。体毛を進化させてこなかった「裸のサル」である人間の毛の生え方の奇妙さを読者は自覚させられるのである。このようにMorrisは読者の視点を相対化させた上で,髪型の流行,整髪の幅広い選択肢,染色など「髪」にまつわる諸問題について語り始める。そして,最終的には,男性の官能的な視点が加わる。この視点は,時に興味深く,時に居心地の悪さを感じることもあるが,これもMorrisの独自性によってこそ描くことのできる視点なのだろう。多くの学者は,自分自身を隠そうとするものである。
 学術的に女性の身体を捉える研究は少なくはない。本書は,女性の全身を対象としていることもあり,多少オムニバス的でもある。しかし女性の「心」と「身体」を切り分けずに考え,さらに男性である筆者の視点を融合させて論じている点において,学術的でありつつもリアルな男性による女性理解がなされている。心理学の本ではないが,性差を議論する心理学者にも一度はぜひ手にとってみて欲しい著作である。(文責:木戸 彩恵)

(2014/2/15)