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クロスロード・パーソナリティ・シリーズ第4巻 嘘の心理学

(村井 潤一郎編著, 2013, ナカニシヤ出版)

目次

第1章 嘘の心理学(村井 潤一郎・島田 将喜)
第2章 嘘の機能(菊地 史倫)
第3章 嘘と非言語的・言語的行動(佐藤 拓)
第4章 嘘を見破る(村井 潤一郎)
第5章 嘘を見破られる(太幡 直也)
第6章 嘘とパーソナリティ(武田 美亜)
第7章 嘘の発達(林 創)
第8章 嘘と司法(上宮 愛)
第9章 嘘と精神生理学(野瀬 出)
第10章 嘘と精神分析(鈴木 菜実子)

 

 本書は,社会心理学,発達心理学,精神生理学,精神分析学,文化人類学などの幅広い観点から,嘘という誰もが経験する現象の面白さを描き出した書である。
 第1章では,嘘とは何か,嘘がどのように成立するかが論じられている。日本における嘘とタンザニアの民族であるトングウェにおける嘘との比較を通じて,嘘が社会や文化のあり方と強く関連することが浮かび上がっている。
 第2章から第6章では,嘘の機能や嘘発見,嘘と個人特性との関連などが,実証的研究の知見をふまえながら解説されている。第2章は,嘘が持つポジティブな機能を明らかにしている。「嘘は悪いもの」「嘘をついてはいけない」と通常多くの人は考えているだろう。しかし,この章では必ずしも「嘘=悪」という図式が成立するとは限らないことが示されている。第3章では,嘘を発見する上での手がかりとその有効性についてまとめられている。嘘の手がかりと言えば,非言語行動が盛んに研究されてきたが,果たしてそれは本当に有効な手がかりなのだろうか。この章では,主にメタ分析の結果から新たな知見が見出されている。第4章は,嘘発見に関する章である。嘘発見の難しさ,なぜ嘘発見が失敗しやすいのか,嘘発見の社会的影響といった興味深い議論がなされている。一方,第5章は嘘を見破られる側に焦点を当てている。嘘を見破られる側の感覚や,見破られているかもしれないと感じたときの反応について述べられている。第4章や第5章の議論は,嘘だけにとどまらず,対人コミュニケーションの過程全般において我々が自己をどのように呈示しようとするか,相手の意思をどのように読み解いているかを考える上で有用な示唆を与えてくれる。第6章は,嘘と個人特性との関連について解説している。嘘をつく人の特性を論じたとしても,そのときどきの嘘の動機や相手を切り離して考えられるほど,嘘が単純なものでないことが示唆されている。
 第7章から第10章では,嘘に関する学術的知見を,様々な分野での応用につなげる試みがなされている。第7章は,乳児期から児童期の嘘の発達について議論している。子どもの嘘の発達が社会性の発達の指標になり得ることが示され,教育場面への提言がなされている。第8章では,司法における嘘について考察されている。司法の場でも嘘を見破ることは困難であることや,嘘による記憶の変容や証言の信憑性の判断など,様々な課題が示される。第9章では,ポリグラフやfMRIを用いた精神生理学的な虚偽検出検査について解説されている。本章の「虚偽検出検査は嘘を検出しない」という記述を,読者は意外性をもって受け止めるかもしれない。しかし,この記述は嘘と生理反応の関連,それを探知する検査のあり方を如実に表している。第10章では,精神分析の視点から,嘘の意義や嘘が具体的な症例の中でどのように出現するかが紹介されている。一口に嘘といっても,その性質や機能は多種多様であることが改めて感じられる章である。
 嘘は,我々にとって馴染み深い身近な現象であるとともに,真実とは何か,コミュニケーションとは何かという普遍的な疑問を投げかける現象である。本書の各章で紹介される嘘に関する研究知見や考察は,人間の心のメカニズムの精緻さや奥深さ,ときには不条理さまでも映し出している。(文責:渡部麻美)

(2014/7/27)