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信頼はなぜ裏切られるのか―無意識の科学が明かす真実―

(デイヴィッド・デステノ(著),寺町朋子(訳),2015,白揚社)

目次

第1章 信頼とは何か?―基本と欠点,そして処方箋
第2章 無意識が支配する―生物学的な仕組みによって決まる判断
第3章 赤ちゃんは見ている―学習と信頼の意外な関係
第4章 恋愛と結婚の核心―信頼と嫉妬の働きを解剖する
第5章 権力と金―上位一パーセントに入る人と,その気分に浸る人
第6章 信頼のシグナル―身ぶりから相手の誠実さを見抜く
第7章 操作される信頼―コンピュータ越しの相手とのつき合い方
第8章 あなたは自分を信頼できる?―将来の自分は予想外に不誠実
第9章 信頼するか,欺くか―最後はいつだってこれだけ

 

 「信頼」とは何か。「信頼」はどのように機能するか。本書では一貫して,このことについて様々なトピックから検討・考察がなされている。著者自身の研究だけでなく,様々な分野の研究を分かりやすく紹介しながら「信頼」について迫り,「信頼」を適切に活用することで,困難・災難を避けたり,あるいは,克服したりする方法について真剣に取り組んでいることがうかがえる。
 本書は9章から構成されているが,第3章から第8章はそれぞれ独立したトピックになっている。そのため,評者としては,第1章,第2章を読んだ後は,好きな順で読み進め,最後に第9章を読む,という読み進め方が良いのではないかと思う。もちろん,順序通りに読むのも結構である。
 第1章,第2章では,「信頼」の本質や「信頼」のメカニズムについて記述されている。従来の心理学における「信頼」の捉え方と,本書での「信頼」の捉え方の類似点と相違点が記述され,「信頼」とは何なのかを知る上で有用な章である。続く第3章から第8章では,目次をご覧になれば分かる通り,様々な現象に「信頼」が関わっていることが実際の研究を分かりやすく解説しながら紹介されている。とりわけ,本書に特徴的なことは,ネット上の信頼やテクノロジーへの信頼(第7章)を扱っていること,自分自身への信頼(第8章)を扱っていることであろう。これらのトピックは,本書のような「信頼」の捉え方をするからこそ,他の章と並列して扱えるトピックになりうるのであろう。最後の第9章では,「信頼」が社会を良くした事例が紹介され,「信頼」が個人にとっても社会にとっても重要であることが説かれるとともに,本書のまとめと著者からの提言が記されている。著者が,本書を通して読者に伝えたかった熱い想いが詰められており,著者の(信頼にとって重要な)誠実さが垣間見える。これを戦略的に利用したのかどうかは分からないが,第9章の最後の一文を読んだときには思わず笑みがこぼれた。ぜひ本書を通読していただいて,その理由を共有できたら幸いである。
 詳しい内容は本書を読んでいただくこととして,以下では評者から見た本書の特徴を3つ挙げたいと思う。
 第一に,「お堅い」言葉が使われることなく,専門分野でない方にもわかるような平易な文章でありながら,非常に説得力に満ちている点である。「信頼」が,人の本質ではなかろうか,すべての現象を読み解くカギになりうるのではないだろうかと思わせるほど,本書は説得力に溢れている。「信頼」に関わる研究をしていない方でも,新たな視点で現象を捉えるきっかけとなりうる内容である。
 第二に,章ごとにまとめがある点である。該当章で紹介した内容を簡潔にまとめてあり,章の内容の概略を知りたい場合や,一度読み終わった後に章の内容を思い出す場合などで有用であろう。章を一度読み,まとめを読むことで理解や整理の一助ともなりうる。
 第三に,「信頼」を活用する方法についての提言がある点である。しかし,具体的な「How to」としての「信頼」の活用の仕方ではなく,その心構えについての提言である。具体的な「How to」でないことに物足りなさを感じるかもしれないが,なぜ「How to」ではなく心構えなのかは,本書を読み進めていただければ理解しえるであろう。評者としても,その心構えに非常に共感し,このような提言をする重要さを改めて感じた次第である。
 以上のような特徴を挙げさせていただいたが,本書にはそれだけでは語りえない面白さがたくさん詰まっている。たとえば,本質を捉えるとは何なのか,それをどのように達成できるのかについても評者個人としては非常に勉強になった。まとめるような視点で既存の研究を捉えてみるという姿勢も参考になるであろう。対人関係に「信頼」がつきものな以上,対人関係(ひいては,人)を扱っている研究者は一度ぜひ手にとって読んでみることをお勧めしたい。
 最後に,本書を読んで思ったことを述べる。著者デステノは,「信頼」が個人にとっても社会にとっても重要なことを主張し,その重要な「信頼」をどのように活用できるか,あるいは,育めるかについて考えているように評者は思った。そのため,「信頼はなぜ裏切られるのか」という本書のタイトルは,若干のミスリーディングになっているように思う。そのタイトルを表す内容(信頼が裏切られる理由)が記されているのも確かであり,本書が「信頼」の真実(The Truth About Trust)について書いてあるのも事実だが,本書は,人のダークな部分というよりも,どうやってより良い社会や関係を築けるかについて示唆を与えてくれる一冊であり,著者デステノの意図はそこにあるのではないかと思う。(文責:仲嶺 真)

・本書評の執筆にあたり,(株)白揚社のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(2016/5/20)