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ストーリーでわかる心理統計 ―大学生ミライの因果関係の探究―

(小塩真司(著),2016,ちとせプレス)

目次

4月 だいたい
5月 くらべる
6月 まえおき
7月 かんれん
8月 つながり
10月 みあやまり
11月 くみあわせ
12月 あつまり
1月 ちょうせい

 

 「大学生ミライの因果関係の探究?ストーリーでわかる?なにこれ,とても面白そう。」
 私が本書に抱いた第一印象だ。私はこの本をぜひ読んでみたいと思い,早速手に取ってみた。
 まずは『4月 だいたい』から読んでみた。区間推定の話だ。
 「難しい統計の話をかなり平易に解説しているなあ。すごいなあ。でも,平易に解説しすぎて,初学者にとっては逆にわかりにくくないかな。心理統計を少し勉強していよいよ卒論に取り組み始めます,という大学3,4年生あたりをターゲットにしているのかな。」
 そう思いながら,読み進めた。文章の読みやすさとわかりやすさもあり,『4月 だいたい』はあっという間に読み終わった。没頭して読んでいたのもあるかと思うけど。
 「『ストーリーでわかる心理統計』とあるけど,初学者にとっては,この本を読んでも心理統計はわからないのではないかなあ。」
 一抹の不安を覚えながら,この日は本を置いた。
 あくる日,改めて本を開いてみた。読む前に少し考えた。
 「『ストーリーでわかる心理統計』とはどういうことだろう?」
 考えた結果,私は,心理統計学の基礎や,心理統計をどうやって使うか,いわゆる方法論的な思考でこの本を読んでいたことに気がついた。だから,この本を読んでも心理統計はわからない,という不安を覚えたのだ。
 「少し視点を変えてみよう。心理統計がわかる本ではなく,現実生活の中で心理統計的な知識がどうやって活きるのかを描いた本だとして読んでみよう。」
 (あとがきを最後に読んだため)後から知ったことだが,筆者である小塩先生はそういう意図があったようだ。私が本書の狙いを勘違いしていただけだった。
 視点を変えてからは,あっという間だった。『5月 くらべる』はt検定およびχ2検定の話。『6月 まえおき』は比較の前提条件の話。大学の講義において前年度と今年度で講義の合格者数が違うのではないか,それは先生が厳しいことが原因だというミライの疑問に対し,江熊先生が原因を知ることがいかに難しいかを心理統計的知識を交えながら説明する。そこでミライは,原因を探ることがいかに難しいかを学ぶ。ちなみに,ミライはこの物語の主人公,江熊先生は心理統計的な知識を使いながら物事の多面的理解をミライに促す大学教員だ。
 「物事が多面的だということは知っていたつもりだけど,改めて読んでみると,その前提をたまに忘れている気がする。」
 自戒の念に駆られた。データを取るだけでなく,物事の“本質”を捉えなくては。
 『7月 かんれん』,『8月 つながり』,『10月 みあやまり』は,相関関係,因果関係,疑似相関の話。『くらべる』ことと『かんれん』はどのような関係性にあるのか,因果を確定することは難しいのに,現実生活ではまるで原因と結果が決まっているかのように説明されたりする。しかし,それを覆すことが容易ではないことをミライは知る。
 「自分はどうだっただろう。簡単に“影響”とか“因果”とかを考えたりしていた気がする。調べて考えることを怠っていた気がするなあ。」
 そんなことを思いながら,この日は本を置いた。
 次の日。はやる気持ちを抑えきれなかった。『11月 くみあわせ』,『12月 あつまり』,『1月 ちょうせい』を一気に読み上げた。交互作用の話,原因同士の関連の話,調整変数の話。どれも心理統計的には必須の知識で,現実生活でもありそうなわかりやすい例が示されていた。
 「ここら辺の話は,因果の探究との関連が少し分かりづらいな。ただ,話はとても面白い。」
 特に『12月 あつまり』は,授業評価アンケートの話で,確かにそうだよなあ,と思いながら,どのような項目が必要かは目的次第という本書の記述には,アンケートをどのように取るかを熟考する必要性を改めて痛感させられた。また,『1月 ちょうせい』は,話が衝撃的だった。その場で3回読んだ。話の内容は読んでいただいた人のお楽しみとしてとっておきたい。
 「やはり心理統計をわかるために読む本と考えるよりも,心理統計的知識と現実生活とを結ぶ本,物事の考え方の一つを知る本として捉えると読み応えのある本だなあ。もっと勉強しなければ。」
 そんなことを思いながら,この本に出会えたことを感謝しつつ,本棚に優しく本書を置いた。寒い秋の夜だった。

 以上が本書を読んだ,評者の感想である。本書が物語風であるため,図書紹介も物語風にしてみた。ただし,本書の物語は,図書紹介とは違い,もっと読みやすく,もっと話が面白い。また,『因果を考える』,『物事を捉える』とはどういうことかを改めて考えさせてもらった。上述したことの繰り返しにはなるが,心理統計を知るための本として読むと物足りないが,物事の考え方の一つを知る本として読むととても得るものが多かった。本書は小塩先生の前著『大学生ミライの統計的日常』(東京図書)の続編である。続けて読むとさらに本書の深みが増す気がする。また,本書は,続編を匂わす締めくくりであった。ぜひとも続編も読みたいと感じさせてくれる,そんな一冊であった。(文責:仲嶺 真)

・図書紹介の執筆にあたり,(株)ちとせプレスのご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(2016/12/1)