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腐女子の心理学 ―彼女たちはなぜBL(男性同性愛)を好むのか?―

(山岡重行(著),2016,福村出版)

目次

序章 問題「オタクと腐女子」
第1章 オタクや腐女子はどのような人物なのか?
第2章 オタクや腐女子はコミュニケーション能力が低いのか?
第3章 オタクや腐女子は「残念」なのか?
第4章 オタクと腐女子のイメージを比較する
第5章 オタクと腐女子の恋愛意識
第6章 オタクと腐女子の大学生活
第7章 オタクの/腐女子の自己表象
第8章 腐女子はBLに何を求めるのか?
第9章 腐女子は猟奇的で異常な描写を好むのか?
第10章 腐女子はなぜ現実をBLとして妄想するか?
第11章 オタクや腐女子の趣味と幸福感
第12章 総合考察
第13章 腐女子とオタクの未来に向けて

 

 日常のなかで腐女子と自称する人に出会うことは多くない。腐女子(BL(Boys Love=ボーイズ・ラブ)を好み男性キャラクターに対して妄想を膨らませる女の子)は,ジャニーズ事務所所属のアイドル・グループを追っかける「ジャニオタ」や宝塚歌劇団のタカラジェンヌを応援する「ヅカファン」のように,明確なその集団としてのイメージが存在しないのではないだろうか。また,仮にイメージが思い浮かぶしても,腐女子とオタクは混同されがちであるのではないだろうか?
 本書は,腐女子が何を求めているか,どのような心性を持っているのかについて,心理学の理論と客観的データから迫るユニークな著作であり,腐女子というポップな現象をハードな心理学の手法と視点で分析するというコンセプトの元に作られている。
 実際,本書を読むまで,私は腐女子と呼ばれる人たちについてオタクとそう変わらない認識を抱いていた。しかし,本書は「第1章 オタクや腐女子はどのような人物なのか?」という問いから始まり,読み進めていくうちに腐女子とオタク,そして一般の人々との差異と共通性が明確になるよう構成されている。とりわけ印象的だったのは,オタク・ノーマライゼーションが進み,多かれ少なかれ人が持っている特性としてオタクが受け入れられている現代においても,腐女子が一般人に擬態してひっそりと生息しているということだった。確かに「自分ヲタです。」とアピールする自己紹介があったとしても,「腐女子です」や「腐ってます」という自己紹介に出会ったことはない。その背景として,腐女子はオタクよりも理解されにくい上に,自分自身に対してアブノーマルな変態としての認識を持っているという構造があることが本書で詳らかに論じられている。
 本書を読み進めるにつれ,腐女子の純粋さが浮き彫りになる。特に,BLをこよなく愛し,そこから受動的幸福感(自分の直接的な成長や向上,達成ではなく,あくまでも他者の作品やパフォーマンスを見ることで感動し,充実感や満足感を得て感じる幸福感)を得ている彼女たちが恋愛に対してどのような意識をもっているか?という問いの答えは「純愛」の意識である。山岡氏は,BLには二重の安全装置が設けられていると述べている。「実行不可能性」と性を聖なるものとする「聖なる愛」の概念である。これを,男性同士の地位的な平等性の上に位置づける安全なポルノグラフティがBLである。純粋な愛の行為を自分とは切り離したところから眺めることによる,身体性を伴わない愛の形に彼女たちは萌えるのである。
 腐女子は,BLという夢中になれるものを持っていることで,幸せを得る。私たちが,幸福感を感じられるのは,趣味・学び・恋愛など,とにかく何かに熱中できているからである。色々な趣味のなかの一つの形として,BLを捉えると,のめり込みますます自分の関心を深めようとする彼女たちの気持ちが理解しやすくなる。最後に,「第13章 腐女子とオタクの未来に向けて」では,自己を隠蔽する腐女子の現状を打破する方向性の示唆もなされている。この章には山岡氏から腐女子に向けた,価値観を大切にしつつ現実世界を生きていくための重要なメッセージが込められている。
 私は,本書を読み,何かに心酔する彼女たちを少し羨ましく思った。と同時に,様々な疑問が生じてきた。彼女たちはどのようにして腐女子になり得たのだろうか?現実には,どの程度のオタクと腐女子が交際し,その交際はどの程度うまくいくのだろうか?そして,腐女子はいつ腐女子でなくなるのだろうか?この問いは腐女子への発達心理学的な問いであるが,他にも本書を読むことで読み手の背景に応じて様々な問いが生まれ,腐女子をテーマに研究をしてみたいと触発される人が増えるだろう。こうした問いを発見し,研究を発展させるためにも,ぜひ多くの人に本書を手にしてほしいと感じる。
 なお,本書の内容については,FMフェステバル「未来授業 ―明日の日本人たちへ」で4回にわたり,山岡氏自身がわかりやすく解説している。ポッドキャストで配信されているので,ぜひ一度聞いてみてほしい。(文責:木戸 彩恵)

・図書紹介の執筆にあたり,(株)福村書店のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(2016/12/8)