(谷口淳一・相馬敏彦・金政祐司・西村太志(編著),2017,北樹出版)
目次
第1章 未知から既知へ:他者を知る
第2章 親しくなる:親密さを高めるコミュニケーション
第3章 深い関係になる:親密な関係の維持と発展
第4章 親密な関係のなかの「わたし」:自己と他者との相互影響過程
第5章 親密な関係からの影響:健康と対人葛藤
第6章 親密な他者集団からの影響
■「世界に一つだけの花」を目指して
「社会心理学」。某通販サイトで検索し,教科書あるいは入門書になりうると考えられる著書を眺めてみると,その数はわりかた多い。社会心理学を学びたいと思って検索した初学者の方はきっとどの本を選んでいいか迷うであろう。仮に教科書として選ぶとしたらどの本にしようと私なりに想像してみても,困ってしまった。どれも良書であるがゆえに,選ぶ決め手が,ある意味存在しなかったのである。
しかし,その「困った」を解決してくれる著書に私は出会った。それが本書「エピソードでわかる社会心理学 恋愛関係・友人関係から学ぶ」である。本書は,教科書あるいは入門書として「オンリーワン」の存在。それゆえ,選びやすいのである。さて,では,本書はどこが「オンリーワン」なのか。
第一に,初学者にとってオンリーワンの存在である。本書は,単体のトピックが複数集まって1つの章が形成されている。そのため,初学者は自分の興味のあるどの章から読むことも,あるいは,どのトピックから読むこともできる。初学者にとって興味のある話題から入れることは,その後の学びのやる気につながるであろう。また,各トピックは「エピソード」+「解説」で構成されている。各トピックにおけるエピソードは身近にあり得る話となっているため,読者は「こんな話あるよねー」と思いながらまず読める。その後,「なるほど!このエピソードは,社会心理学ではこうやって説明できるのか!」と解説を読んで学ぶ。つまり,初学者にとって難しいと考えられる心理学用語が身近なエピソードと結びつけて考えることができる。社会心理学の知識を習得しやすくするための執筆者の先生方の創意工夫が感じられる。
第二に,社会心理学を再び学びたい者にとってオンリーワンの存在である。心理学の研究領域は広くなっており,「心理学の地図」が書けないという現状にあるらしい[1]。社会心理学においても研究テーマが多様化している現状を踏まえると,「社会心理学の地図」が書きにくい状況にあると言えるかもしれない。そのような中,本書は「親密な関係」という視点から「社会心理学の地図」を提供している。「自己」,「対人認知」,「集団」といった従来の入門書では個別に扱われていたトピックについて,一貫して「親密な関係」という視点から説明する。そのため,今まではバラバラのように見えた各トピックにおける重要概念(キーワード)が,一つのまとまりを呈するかのように,あるいは,ネットワークを形成しているかのように繋がっていることが浮かび上がってくる。もちろん,単純に読んでいるだけで「地図」が見えてくるわけではなく,それなりに意識して読むことは必要である。「親密な関係」から各キーワードを読み解くことで可能となった社会心理学における重要概念間のつながり。これを学べることはこれまでの著書にはない本書の特徴であり,また,様々な概念が繋がっていることに気づけることも,本書の強みと言えるであろう。
以上の意味で,本書はまさに「世界に一つだけの花」を目指して記された著書と言える。「社会心理学」を説明するためにわかりやすく書かれてはいるが,その先の深い「社会心理学」へいつのまにか誘われている,そのような感覚を抱かせてくれる。また,本書が「親密な関係」という視点から社会心理学を俯瞰していることによって,「社会心理学」とは何なのかについて改めて考える機会を得られるかもしれない。専門の分化が進んでいる今,改めて「社会心理学」とは何なのかと,自分の立っている地平を自分なりに考えることは重要かもしれない。本書はその思考の足がかりを提供してくれるであろう。(文責:仲嶺真)
注[1] 歴史的・社会的文脈の中で心理学をとらえる(外部リンク)
・図書紹介の執筆にあたり,(株)北樹出版のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。
(2017/5/10)