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マインドインタラクション AI学者が考える <<ココロのエージェント>>

(山田誠二・小野哲雄,2019,近代科学社)

目次

第1章 マインドインタラクション
第2章 人とモノのマインドインタラクション
第3章 人と人のマインドインタラクション

 

 近年AIは,学術分野や産業分野など,幅広い分野でブームとなっている。その中で本書の著者は,人間はAIに心(マインド)を求めているが,現状AIは本当の意味でマインドを持っているとは言えないと指摘し,今後は人間とAIのマインドがいかにインタラクションしていくかということ(ヒューマン・エージェント・インタラクション:HAI)が,熱い研究テーマになると述べている。本書では,HAIに関連する社会科学,認知心理学,哲学などの研究知見が紹介され,初学者であっても,HAI研究とは何かの全体像が分かるような構成となっている。
 第1章では,HAI研究の全体像が掴めるよう,HAIの研究全般の研究知見が,日常的現象,研究の方法論と共に,具体的に紹介されている。また評者のような初心者にとっては大変有難いことに,機械学習とは何かといった,日常的に耳にしながらつい曖昧に理解してしまっている学術用語についても丁寧にまとめられ,解説されている。
 第2章では,AIと人間のインタラクションが上手くいくにはどうしたら良いかというテーマを軸に,興味深いトピックが多数議論されている。例えば,人間は大変飽きっぽいものであり,AIエージェントに規則的な繰り返し反応をされるとすぐに飽きてしまう。そのためAIが人間に飽きられないためには,機械的な規則性を感じさせない,時々違う反応をする生き物らしさを実装する必要があるわけだが,実際にどうしたらそれを実現できるのかといったことが,研究知見を基に述べられている。
 第3章では,人間同士のコミュニケーション特性を踏まえ,そこにAIが入ることで,人間のコミュニケーションにどのような影響を与えるかが議論されている。中でも評者が興味深いと感じたのは,人間同士が敢えてAIエージェントを介してコミュニケーションを取ることによる効果である。人間は,他者から直接アドバイスや注意を受けると反発心を感じやすく,例えその内容が納得のいくものであったとしても,受け入れることが難しいと知られている。そこで著者らは,そのコミュニケーションに,AIエージェントを媒介することが有用である可能性を指摘している。つまりAIエージェントを介してアドバイスを受けることで,人は他者から言われている感覚が薄れ,内容そのものを評価しやすく,受け入れやすくなると予測されている。評者にとって,この予測は直観的に,大変納得のいくものであった。人はそれぞれ日々思考し,信念を持って,何だかんだ必死に生きている。その中で,同じように人間として生きる他者からアドバイスを受けると,自分の日々の頑張りを否定されたように感じ,またその意見に耳を貸すことは,その他者に自分をコントロールされることを意味し,自分という人間の在り方を脅かす行為であると感じるのではないか。よって,たとえ心のどこかで本当はその他者の意見が有益であると感じていたとしても,とても素直に受け入れることはできない。一方,同じ人間として生きているわけではないAIエージェントにアドバイスされた場合はどうだろうか。AIエージェントは,人間という同じ土俵には乗っていない。よって例えそのアドバイスに従ったとしても,AIに自分がコントロールされたとは感じにくく,「AIの意見が有益だったので,あくまでも自分がその意見を受け入れる選択をした」という主体感を保持しやすいのではないだろうか。私達はしばしば,他者からの意見を後に振り返り,それがいかに建設的なものであったかに気づき,受け入れなかったことを後悔する。そんな中でこのアプローチは,コミュニケーションと人生の質向上に,大いに役立つのではないだろうか。
 AIブームの中,「自分の研究をAIに繋げていきたい」「自分の心理学的知識や研究ノウハウを生かして,AIを次のキャリアにしたい」と考えていた大学院生や若手研究者は多いのではないか。評者も,漠然とそのようなことを考えていた一人である。しかしながら,AIとは何なのか,それにどう心理学を生かせるのかということについて,予備知識が不足しすぎていたため,論文や学術書を読んでも中々ピンとこずにいた。しかしながら本書は,AI研究とは何であるかを一般向けに大変分かりやすく,かつ学術的に忠実な形で説明しており,予備知識の無かった評者も本書を読んだことで,AI研究への取っ掛かりが得られたのではないかと感じる。よって本書は,AI研究の入門書として有用な1冊であるだろう(文責:中島実穂)。

※図書紹介の執筆にあたり,近代科学社のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(2020/5/1)