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インタビュー企画19:寺崎正治

第19回は川崎医療福祉大学に所属していらっしゃいます寺崎正治先生にインタビューをさせていただきました。先生が心理学やご自身の研究テーマに関心を持たれたきっかけ、学部生や大学院生の頃のエピソード、若手研究者へのメッセージをお聞きしました。

――先生が心理学に興味をお持ちになったきっかけや時期をお聞かせください。

高校生の時に、世界の名著シリーズの中に「フロイト」というのがありまして、たまたまそれを読んで。精神分析学入門、夢判断だとかそういう内容だったように思うんですけど、面白いなと思って。今でもよく高校生が関心を持つ内容じゃないですか。それで、心理学というものを勉強してみたいと思ったのが、どうも最初だったように思います。それから、実際に入学したのは関西学院大学の文学部。そこは当時、古武先生の条件反射学を受け継いだ伝統があって、いわゆる実験心理学なんですよね。私の学部時代の先生が今田寛先生で、ラットを被検体にした学習研究。僕がイメージしたものとは全然違うわけね。これはこれでそういうものなのかなと。そこで、一から心理学を、主に実験心理学の勉強をしました。

―――実験心理学から先生のご関心である感情に興味を持つまで、どのような経緯があったのかをお聞かせください。

実験心理学と感情っていうのは、実験心理学の手法で感情を研究するわけで、特に矛盾するというわけではなくて。当時、たまたま実験心理学と言うと、動物の学習研究だったというだけの話で。今田先生自身はfearだとか、そういったものに関心を持っておられましたから。動物実験に関する論文を結構読まされましたが、これはこれで仕方がないかと思って(笑)学部時代、動物実験は得意じゃなかったんですよ(笑)
卒論は今田先生に不安だとか感情に興味があり、そういう感情はどういった中身なのかと卒論で取り上げたいと話したら、アメリカのDavitzという人の「Language of Emotion」という本を紹介されまして。どういう本かというと、発想は簡単で。恐怖だとか色々な感情があって、それが主観的にどういう経験なのかを調査し、それを情動ごとにまとめた、そういう本で。そのやり方を真似して卒論でやってみました。そんなに情動を取り上げることはできませんからね、不安、恐怖、喜び、憂鬱、それぐらいかな。主観的な経験を記述した文をたくさん集めてきて、チェックリストを作るんですよ。不安なときは、具体的にどういう状態でしたかと聞いて、当てはまるものにチェックしてもらって。その共通項を不安の定義とする、といったそういう研究が卒論でした。

―――先生が大学院に進学しようと思ったきっかけをお聞かせください。

何でかと言われると…今の言葉でいうと、言ってみればモラトリアムだったわけね(笑)どうも、すぐに就職して働いてお金を稼ぐというのがピンとこなくて。最初はモラトリアム状態を続けたかったというのが一つにあったと思う。勿論、もう少し心理学を勉強してみたいなというのが当然ありましたけれど。

―――その状態から、研究者になろうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか。

きっかけ…ね…。その道に進んだら研究職あるいは教職の道に就きたいな、と言う風に。なんとなくそういう方向に行ったということでしょうね。

―――では、何か明確なものがあったというわけではないのでしょうか。

そういう志があったというわけではないような気はするんだけどな(笑)

―――一つの運命みたいなものでしょうか。

まあね。大学院時代に何してたって言われるとね…。今の大学院生って大変じゃないですか。結構大変だったでしょ?

―――はい。結構、しんどかったです(笑)

そうでしょ。当時はのんびりしていて。勿論、授業には出ていましたけど。夏休みには関学が立山に管理している小屋があって、ほとんどそこで過ごしていましたよ。僕は暑いのが苦手だから。それで、「寺崎君、どこ行ったの」と誰かが聞いてたよ、と帰ってきたら言われて。そんな感じで。割とのんびりと過ごさせて頂きました(笑)

―――そうしますと、院生生活は避暑地じゃないですけど、のんびりされながら研究された、と…。

そう、人生の避暑地みたいな(笑)のんびりしすぎて、なかなか就職ができなくてね。非常勤は色々行ってましたけれど。ちゃんと常勤で就職したのが今の川崎医療福祉大学で。もう40歳前くらいだったもの。

―――就職されるまでに研究テーマはいくつか変わっていかれたのですか?先生というと、心理尺度集に載っている多面的感情状態尺度が有名ですが。

あれは、まだ非常勤であちこち行っているときに、性根を入れて研究をしないと危ないぞと思って研究を始めて。色々あって3年くらい掛かったけど、その成果。だから、卒論でやってたこととあまり変わってないよね、テーマ的にも内容的にも。

―――現在は、主観的幸福感ですよね。

うん、だからまあ、幸福感の主観的側面というと、ひとつは感情のコンポーネントが大きいじゃないですか。あとは認知的なもの、満足とかあるけれども。だから言ってみれば、今は快楽主義的な幸福感なわけね。もう少し本当はそれに加えるところの幸福感ができたらしたいな、と思ってはいます。人生の生きがいっていうのかな、そういう話も含めた幸福感ってことになるだろうと思います。

―――最後に、研究者を目指す若手の方々にメッセージをお願いします。

僕は研究者のお手本みたいな人間じゃないから言いにくいんだけれど…。やっぱりこの道で行こうと思ったら、粘り強く、ちょっとのことで放棄しないで、根気よくやったらいいんじゃない、そんなところかな。それでダメだと思ったら、そのときに見切りを付ければいいだけで。

―――このインタビューは第22回大会後に行われました。寺崎先生には上記以外の質問にも朗らかにお話をして頂きました。なお、掲載している写真は大会会場の最寄駅にて撮影させて頂いたものです。お忙しい中貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました。