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インタビュー企画22:藤田主一

第22回は日本体育大学の藤田主一先生にインタビューをいたしました。インタビューでは,藤田先生が心理学を始めたきっかけ,現在の研究活動や実践活動,若手へのメッセージなどをお聞きいたしました。

――藤田先生が心理学を志したきっかけを教えて下さい。

私はもともと経済学部の出身です。その私が心理学の道へ進んだのには,私の伯父である高嶋正士先生(現:共立女子大学名誉教授)が心理学者であったことが伏線です。あわせて経済学部学生のころに授業で心理学を受講したこと,卒業後の進路を決めなければならない時期が迫っていたことなどが重なり,就職活動を経験し内定も得ていたのですが,伯父に相談して再度学生に戻ることにしました。進学先は,伯父の勧めもあり私学の心理学科では最も古い歴史を誇る日本大学文理学部心理学科の2年次へ学士編入学しました。伯父と同大学の大村政男先生(現:日本大学名誉教授,日本パーソナリティ心理学会名誉会員)が同窓生であったことがご縁でした。しっかり心理学を学びたいのであれば,すぐに大学院へ進むのではなく学部から始めた方がよいというアドバイスによるものです。
そのころNHK教育テレビで「大学講座(心理学)」が放映され,最新の現代心理学の講座はもちろん充実していましたが,ユング研究所から帰ってきたばかりの河合隼雄先生(当時京都大学助教授)の「無意識の世界」の内容にも興味を惹かれました。学部では同級生より数年の年長者であること,4年間の学習を3年間でクリアしなければならないことから,概論や演習,実験,検査などの授業に追われる日々でしたが充実した時間でした。科学的レポートの書き方も訓練させられました。併せて教員免許状取得のための授業も受講しました。4年次には母校の中学校での教育実習も体験しました。現職を思えば教職科目の履修は貴重なものでした。

――卒業論文はどのようなテーマのものを書かれたのですか?

卒論ではケーガンの「熟慮型-衝動型認知スタイル」の研究をしました。小学校に行ってデータを取り,児童の認知のパターン,課題の熟慮的遂行あるいは衝動的遂行が認知的熟慮性-衝動性を測定する尺度とどの程度マッチングするのかについての実験や,自分はせっかちな方なのか,のんびりな方なのかという児童の自己評定についての調査を行いました。そして,それらを組み合わせて研究をしました。

――そのテーマは修士論文でも続けられたのですか?

修士論文まで続けました。指導教授は学部の時は花沢成一先生,修論は山岡淳先生(現:日本大学名誉教授,日本パーソナリティ心理学会名誉会員)でした。両先生は大村政男先生ともに日大心理学を代表する方々で,花沢先生は母性心理学,山岡先生は脳波研究においてそれぞれ第一人者の先生です。両先生が温かく見守ってくださいましたおかげで,研究することはとても有意義で楽しい時間でした。
博士課程からは,ローゼンツワイクが創始したP-Fスタディの研究に着手し、これは現在も継続しています。投影法として著名な人格検査ですが,研究としてはそれほど多いとは言えないようです。今までに小学生やその保護者などにお願いして貴重なデータを収集してきました。
それまで大村先生から直接指導を受けたわけではなかったのですが,大村先生が30年前から続けられている「血液型と性格の科学性」の研究のお手伝いをしています。「血液型と性格」に関する文献の発掘や得られた歴史的事実,最新の心理学的手法による研究成果に基づいて現代社会へ警鐘を鳴らしています。その甲斐あって,最近はブームが沈静化していますがどうでしょうか。この分野において大村先生が発見された知見は多いのですが,若手研究者の文献の中には十分に引用し切れていないものも見受けられます。

――卒業論文や修士論文で苦労されたことはありますか?

成人をやってもあまり意味がないと思ったので,小学生のデータを取らせていただける学校を探し,データを取り続けました。そのため,調査協力者を集めることに苦労しました。また,当時,認知スタイルの研究が欧米ではどのように進んでいるのかを把握するのは大変でした。学部学生のとき、花沢成一先生のご紹介で落合幸子先生(当時東京教育大学助手)から最初にご指導いただきました。その後、臼井博先生(現:札幌学院大学教授),宮川充司先生(現:椙山女学園大学教授),山崎晃(現:明治学院大学教授)など,そのテーマの研究をなさっている先生や先輩のところにお邪魔して色々な資料をお借りしたり, ご指導や情報交換などをさせてもらったりしました。

――先ほどP-Fスタディをご研究なされていたとおっしゃっていましたが,どのように行われていたのですか?

小学校に行って,子どもとその母親にもP-Fスタディをやってもらいました。当時はできたんですよ(笑)。親子場面の刺激絵に特化したものをやってみました。子どもにはどんな反応をするのかを聞き,母親には「お子さんはどのような反応をすると思いますか」,「母親として期待している答えはありますか」と聞きました。実際にやってみると,子どもが「ごめんなさい」と謝る反応をする場面で,親が期待するのは「ごめんなさい」プラス何かでした。つまり,謝った後の行動に親は関心があったのです。その結果を論文にまとめて,アメリカにいるローゼンツワイクに勇気を出して送ってみました。一ヶ月くらいして“thanks”と返事がきました。しかし,日本語で送ったので,多分読んでいなかったと思います(笑)。ですが,「日本にはこういう研究者がいるから, この研究者と連絡を取りなさい」と返事をくれました。その手紙は私の宝物です。
P-Fスタディの検査としての要件への新たな提言,P-Fスタディによる母-子研究,4コマ漫画風に変化させてのロールプレイングなどにも着手しています。現在,日本版を作成された秦一士先生(甲南女子大学名誉教授)が会長を務められている「神戸P-Fスタディ研究会」とも関係し,そのご縁もあって私は3年ほど前に関東地区で「東京P-Fスタディ研究会」を立ち上げました。まだ十分に機能していませんが,今後さまざまな活動を展開していきたいと考えています。

――日本大学を出られてからは,どのようなご研究をなさっているのでしょうか。

私が所属しているのは教職課程ですので,教育に関する研究を行っております。所属の日本体育大学はオリンピックメダリストだけでなく,数多くの保健体育教師を輩出していますので,大学生が描く教育観や教師像,介護等体験や教育実習の意義や実態などに関心があります。授業では,教育現場の事例などを話し,そのことについて考えてもらうようにしています。最近,体育・スポーツ領域では体罰が問題になっていることから,体罰の心理学的な研究も始めています。また,現場の小中学校の先生は心理学の知識を求めていることが多いので, 子どもの発達や不適応行動などのテーマについて一緒に勉強会をしています。
同時に,近年,大村先生が研究に着手されている「県民性とパーソナリティ」の共同研究に浮谷秀一先生(東京富士大学教授)とともに参加しています。このテーマは,日大心理学科の創設者である渡邊徹先生の「旧新人国記」研究を改めて追究するものです。学会の年次大会のときに,その地域の県民性(当時の郷土性)について文化人類学やパーソナリティ心理学など多角的な視点から取り上げてきました。ほぼ全国を一周したと思います。そこで,2013年度の第22回大会(江戸川大学)のときに自主シンポジウム「パーソナリティと県民性-人國記からの考察-」を開催しました。
パーソナリティに関係するものとしては,「人格の偉大性」の研究にも挑戦してきました。この領域は,古くはゴルトンやターマンらに遡ることができます。これまで,児童生徒,学生,社会人などを対象に,質的量的にアプローチしてきました。因子分析の結果によると「偉大性」を構成しているのは5因子のようで,私は「偉大性のBASIC仮説」を提案しています。

――教育現場において,心理学は役立つものと思われているのでしょうか。

現場の先生は心理学が役立つと思っています。心理学に対する期待や思い入れは非常に大きく,同じ話をするにしても,心理学を学んでいる人がするのと他の人たちがするのでは,違った受け取り方をされます。また,現場は役に立つ心理学を求めています。例えば,不登校のお子さんがいて,その子に対して,「こういう分類ができます」,「このような要因があります」では,だったらどうすればいいのかという話になってきます。一般論ではなくて,「自分のクラスのAさんの不登校を解決したい,明日からどうすればいいのですか」という先生の問いかけに対して,明日からこのように動けばよいのでは‥‥という具体的な話をしてあげる必要があります。 そのためには,基礎的な勉強も大切なのですが,応用的な勉強にも目を向ける必要があります。

――先生がなさっている活動を教えていただけますか。

適応指導教室に通う子どもの保護者たちの集まりに出席して,アドバイスではないのですが,保護者の話をコーディネートすることもやっています。そうすることで,保護者が「この悩みは自分だけではなかったんだ」と感じることができて,子育てを頑張ろうという気持ちになってもらう活動です。ちょっとだけ役に立っているかなぁとは思っています(笑)。
また,いくつかの自治体とも関係させてもらっています。前任の城西大学にいるときに伺った事例研究会には,今でも月1回程度ですが参加しています。そこでは各学校から挙げられる事例を,各学校の管理職の先生,担当の先生,相談員の先生,教育センターの専門の先生との間で話し合います。それ以外にも研修会を行います。年度当初にその研修会のスケジュールが決まり,今月は発達障害,来月はいじめ,その次は‥‥というように行います。内容は教育委員会が決めていきます。担当の先生は1年で変わることが多いのですが,長くかかわっておられる先生もいらっしゃいます。そのため,一度お話した(?)内容を知らずにお話すると「聞いたことありますよ」と言われてしまいます(笑)。そのため,同じ内容でも以前に話した内容とは変えるようにしています。研修会をする上で,学校現場のことを知らなければなりません。「教育の先生は心理に興味があるけれども,心理の先生は教育に興味を持たない」と言われる場合がありますが,それでは学教教育に入り込めません。学校の組織や仕組みがどうなっているかも知らなければなりません。

――先生が研究者として,今後こうありたいというイメージがありましたら教えてください。

教育現場の先生や保護者、そして子どもたちに対して,役に立ててもらえるような研究活動や実践活動をしていきたいと考えております。そのような活動を行うことに,後の人生を費やしていきたいなと考えています。

――最後に,若手研究者にメッセージをお願いします。

世間の人々は心理学に対して大きな期待を寄せています。さまざまな心理現象や今日的な課題に対して知識や意見を求められることがあります。自分は実験心理学が専門なので‥‥,自分は臨床心理学が専門だから‥‥,といって回避することは残念です。専門の勉強はもちろんですが,幅広い心理学教養も兼ね備えてください。たとえば,授業で「教育心理学」や「発達と学習」の科目を講義できても,学校現場の実態や教育学などの知識が乏しければ,現場と遊離した内容になってしまいます。学生・院生のときはいろいろな分野に関心を持ってください。
また,心理学を志す若い方はたくさんおられます。研究者として心理学をライフワークにしようとする場合,相当な競争を乗り越えていかなければなりません。その大変さは理解しています。そのためには業績を重ねる必要があります。研究のための研究であったとしても,業績の数がモノを言う世界です。一方で,どうしても基礎的研究に目が奪われる傾向があるようにも感じています。心理学は,その研究成果が社会に生かされることで評価が得られ貢献できると思います。これからは,応用的に実践活動と繋がることが求められると思いますので,応用心理学にも関心を持っていただくように期待しています。

 今回のインタビューは,藤田先生の研究室にて行わせていただきました。また,インタビュー後には,藤田先生ご自身からインタビュー内容についての補足のメールもいただきました。お忙しい中,貴重なお話をお聞かせ下さり,誠にありがとうございました。