HOME > 研究者紹介 > 藤井 勉(誠信女子大学校人文学部)

藤井 勉(誠信女子大学校人文学部)

第26回は、若手研究者の藤井勉先生にご自身の研究をご紹介いただきます。藤井先生は誠信女子大学校人文学部に所属され、IATを用いてご研究をされています。ここでは、現在の研究を始めたきっかけやテーマの紹介、現在の生活についてご説明いただきました。

Implicit Association Test (IAT) を用いたパーソナリティ・態度の潜在的側面を測定する研究

現在の研究を始めたきっかけ

私は2003年に東京学芸大学に入学した頃,カウンセラーになることを目指していました。学部の講義や実習の中でカウンセリングの諸理論を学びながら,実験法の授業で実際に実験を行ったのがきっかけで (アンダーマイニング効果の実験でした) 動機づけに関心を持ち,実験の面白さに惹かれていきました。

テーマの紹介

みなさんの周りに「友達と話しているときは面白い話をたくさんするし,場を盛り上げる余裕もある人なのに,知らない人たちの前で話すときはそれが嘘のように固まってしまう人」や,「いつもはニコニコしていて温和そうな人なのに,自分のことを批判されると急に怒り出す人」はいませんか?おそらく,質問紙を用いて測定を行うと,前者のシャイネスは低いでしょうし,後者の自尊心は高いでしょう。ですが,「人前で固まってしまう」,「批判されて急に怒り出す」のは,低いシャイネスや高い自尊心からは予想しにくいことです。私は,こういったことがなぜ起こるのかに関心があります。
私はImplicit Association Test (IAT) という潜在的測度を使い,パーソナリティや態度の潜在的側面を測定する研究を続けています。潜在的な測定は昔から種々の方法がありましたが,安定性の低さなどが指摘されていました。近年 (といっても,もう16年前になりますが) になって信頼性・妥当性に優れるIATが作成されてから,IATやそれに類した潜在的測度を用いた研究は国内外を問わず増加しています。その中で,潜在的測度のみ予測できる指標の存在が繰り返し示されてきました。もし,パーソナリティや態度に質問紙などの自己報告では測定しきれない部分があり,それを潜在的測度で補うことができるなら,人のパーソナリティをより広範に理解することや,行動を予測することへの応用可能性もあります。もちろん,質問紙などの顕在的測度も十分に意味があります。場合によっては顕在的・潜在的測度のどちらかが強い予測力を持つかもしれませんが,両者を組み合わせて使うことが有効になる場合もあるでしょう。私は,潜在的測度に「どれだけのことが期待できるか」を明らかにしたいと思っています。
そして,潜在的な側面を安定的に測定可能な方法が確立されれば,「顕在的・潜在的測度はどのような指標と関連するのか」ということの他に,「両者が一致していない場合」は何が起こるのか,を調べることもできます。たとえば自尊心研究では,Rosenbergの自尊心尺度などで測定される顕在的自尊心が高くとも,潜在的自尊心が低い場合,内集団ひいきを行ったり,自己が脅威に曝されたときに他者に攻撃的になったりするなどのネガティブな結果が報告されており,私の研究でも類似した結果が得られています。両者の不一致を扱う研究は主に海外で多く行われていますが,日本ではまだ緒に就いて間もありません。潜在的測度の可能性を探るとともに,顕在・潜在の不一致について継続して検討していきたいと考えています。

現在の (研究) 生活

2010年4月より2年半,学習院大学文学部心理学科で助教を務め,2012年9月より韓国の誠信女子大学校人文学部日語日文学科に着任しました。「武者修行」と位置づけ,日本に戻る日を待ち望みながら勤務しています。

そろそろ「若手」ではなくなる年齢かもしれませんが,このような貴重な機会を賜り,関係者の方々に心よりお礼申し上げます。お読みいただいた皆様に学会等でお目にかかれますことを楽しみにお待ち申し上げております。