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澤山 郁夫(大阪大学大学院人間科学研究科)

第28回は,若手研究者の澤山郁夫先生にご自身の研究をご紹介いただきます。澤山先生は現在,大阪大学大学院人間科学研究科に在学され,継続的学習における学習量推移の規定因についてご研究されています。ここでは,現在の研究をはじめたきっかけや現在の研究の状況,今後の展望についてご説明いただきました。

個人の自律的な学習量推移を規定する社会的要因とそのコントロールの検討

現在の研究を始めたきっかけ

私は,もともとは小学校か中学校の教員を目指し,岡山大学の教育学部に入学しました。学部時代は,教育実習や塾講師のアルバイトなどを通して,「ヒトの考え方や気付き,行動の違いはどこから生まれるのか」ということを疑問に感じていました。また,目の前にいる子どもに,「○○に気付いてほしい」という願いをもったり,自分自身がもっといろいろなことに気付けるようになりたいと思ったりしていました。そのような時に,心理学の講義で,次のようなことを知りました。「ヒトは,想像をはるかに超える膨大で複雑な情報を処理している。しかもそれは無意識的な処理によるものが少なくない。」
ヒトが表出するものが,必ずしも意識的にコントロールされたものではないことを,私はこのとき初めて知りました。そして,もし,これらが表出されるまでの無意識的な情報処理過程を,より精緻に捉え,説明することができれば,個人の行動を予測したり,効果的な支援を加えたりすることができるようになるかもしれないということも知り,とてもわくわくしました。自分自身に対しても同様に,そのような知識をもっておくことで,より自己調整が利くようになるかもしれないと思うようになりました。

現在の研究の状況

研究では,日々の学習を自律的に継続するために必要な要因に的を絞り,検討を進めています。テレビやゲームのような誘惑物の多い今日,子ども(学習者)が自律的に学習を継続する状況を作り出すのはますます難しくなっているように感じたためです。
具体的には,独自に開発したeラーニングシステムなどを用いて,1ヶ月を超える学習実験を行い,自律的な学習継続に効果的な条件を検討しています。特に着目しているのは,他の学習者との繋がりによる,学習量推移への影響です。これまでの主な成果として,学習者が単独で学習を進める条件(単独学習条件)では次第に学習量が減少していくのに対し,オンライン人数表示機能などによって,他の学習者との繋がりをもつ条件(繋がり学習条件)では,学習量の減少が抑制されることがわかりました。
また,詳細は検討中ですが,繋がり学習条件では,学習をやめる者が出始めると,まるでその減少分を集団として埋め合わせるかのように,これまでほとんど学習をしていなかった別の学習者が学習し始めることが,データから示唆され始めています。従来,このような社会的補償現象は,集団の成果が個人にとって重要な意味をもつ協同課題において起こると考えられていました。しかし,私が検討を進めている学習実験は,一問一答式で学習を進める個人課題です(互いの学習量は表示されない)。すなわち,個人課題でも,個人が学習行動を生起させられるかどうかは,所属集団の他者がどのくらい学習をしているか(の認知)や,それがどのような推移をたどっているか(の認知)に,想像以上に依存している可能性があります。
このような個人課題に対する社会的な影響のメカニズムを明らかにし,より個人の学習が長続きするための環境を創りだしたいと考えています。

今後の展望

実際の学習場面において,実験条件の効果を継続的にみていくことを大事にしていきたいと思いますが,このような方法は一般的な実験に比べると,様々な誤差が混入しやすい状況にあります。そこで,一回の実験で得られた結果に過度に信頼をおくことなく,常に結果の再現性を慎重に確かめる姿勢が,特に求められます。しかしながら一方で,実験が長期にわたることや,参加者の確保が難しいなどの問題から,一年に行える同じ実験の回数は限界があります。
そこで今年度は,より多くの実験をパラレルに展開できるよう,目標管理や注意バイアストレーニングのように,継続を要する個人課題をテーマに,実験に用いるスマートフォンアプリの量産を試みています。日常的に使ってもらえるようなシステムの開発と研究活動の両立は難しいですが,私自身も日々の研究活動をコツコツと継続できるよう努めて参ります。
最後になりましたが,まだ勉強途中の私にこのような貴重な機会を与えてくださり,本当に感謝しています。学会や研究会などで,皆さまのご指導ご鞭撻を賜われましたらこれ以上の幸いはございません。何卒,よろしくお願い申し上げます。