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小國 龍治(関西学院大学大学院文学研究科)

第40回は,若手研究者の小國龍治先生にご自身の研究についてご紹介いただきます。小國先生は現在関西学院大学大学院に所属され,強み(strengths)に関するご研究を進めています。ここでは,小國先生がご研究を始めたきっかけや現在取り組まれているご研究の内容,今後の展望についてご説明いただきました。

強み (strengths) に関する研究

研究を始めたきっかけ

私は学部・修士課程時に,臨床心理学を専攻しており,学外での実践活動では,児童相談所や教育委員会での勤務も行なっていました。そこでは,虐待やいじめを受けた経験から,過度に自分の短所や弱点に注目し,ネガティブな考え方や自信のない発言をしている子どもたちを多く目にしてきました。そうしたなかでも,子どもたちの長所や良さを見つけ,ポジティブな行動をきちんと評価してあげることで,子どもたちの表情はとても明るくなり,他児に対して思いやりのある行動ができるようになりました。こうした経験のなかで,子どもたちの持つ長所や良さに関する研究を行ない,少しでも多くの子どもたちが元気に過ごせるようになる方法を提供したいと思うようになりました。

現在取り組んでいる研究の内容

長所や良さは,強み (strengths) と呼ばれ,思考・行動・感情に反映されるポジティブな特性と定義さます。Peterson & Seligman (2004) は,例えば,親切心や感謝,楽観性といった,文化普遍的に価値のある性格特性を,人間のもつ強みとして整理・分類しています。強みは,日常生活で活用する (例:困っている人を助ける,困難な状況でも前向きに頑張る) ことが重要であり,強みの活用は,自他のwell-beingや他者との良好な関係性を維持・促進することが示されています。
従来の強みに関する研究では,強みの活用といった行動的側面に焦点を当てて研究が行なわれてきました。そうした一方で,私が強みに関する研究を始めるきっかけになった,自分の強みや長所に気づくことができず,過度に自分の短所や弱点に注目している子どもたちには,どのような支援を行なうことが良いのでしょうか。
近年の強みに関する研究では,行動的側面に焦点を当てた研究に加えて,自己の強みに気づくことや,強みを活用しているという主観的な感覚をもつことも重要であると主張されています。そこでは,自己の強みを認識することや活用しているという主観的な感覚をもつことは,well-beingの高さや抑うつや不安の低さと関連することが示されています。また,児童生徒を対象とした強みに関する介入研究では,強みを活用させるセッションに,自分の強みに気づくセッションやクラスメイトと強みを見つけあうセッションを行なうこともしています。私たちはこうした視点に基づき小学生を対象に自己の強みを認識している程度と強みを日常的に活用している感覚を測定する,児童用強み認識尺度と強みの活用感尺度を作成しました。さらに,児童の強みの認識や活用感の高さは,ストレス反応の低さと関連していることも明らかになりました。このように,子どもたちのwell-beingを考えていく上では,自己や他者の強みに気づくことや活用している感覚を持つことも重要なのではないかと考えています。

今後の展望

強みに関する研究は,まだまだ発展途上にあり,強みを活用することがなぜwell-beingを高めるのかといったメカニズムも明らかになっていません。従来の行動的側面に焦点を当てた検討に加えて,今後の研究では,強みの認知的側面の観点からも強みを活用することがwell-beingを高めるメカニズムを検討していきたいと思います。それらの研究知見をもとに,行動と認知の両側面から,強みがwell-beingを高めるメカニズムのモデル化を行なうことや,そのモデルに基づいた介入研究を教育・臨床場面に応用していきたいと考えています。
最後に,このような貴重な機会を与えてくださった日本パーソナリティ心理学会の皆様に,心よりお礼申し上げます。