研究を始めたきっかけ
学部生の頃の専攻は実は乳幼児の発達心理学で,幼稚園で子どもを観察する日々でした。しかしまったく卒業論文のアイディアが浮かばなくて,どうしようと悩んでいるときに,偶然本屋で「教室内(スクール)カースト」という本を見つけました。本を読むのは苦手なのですが,ときめきを感じ,一日で読み進めてしまい,「これだ!」と思い卒業論文のテーマにしようと決めました。当時の指導教員は僕が乳幼児の研究で卒業論文を書けないことを見抜いていたみたいで,無事に(笑)卒業論文のテーマは認められました。また,卒業論文のテーマが決まった頃に今の指導教員(思春期の問題行動が専門)が北大教育に着任されたので,卒業論文からお世話になりました。しかし,卒業論文で中学生を対象とした量的研究をやるとは思っていなかったので,統計解析など量的研究のすすめ方がわからず,泣きながら教科書を読んで分析して必死に卒業論文を書きました。修士論文を書くよりも辛かったです(笑)。その後は(気がついたら)このテーマで博士課程まで研究を進めてきました。色々と偶然が重なってこのテーマで研究し続けていたのかなと思いますし,そういう意味では「教室内(スクール)カースト」との出会いは運命の本と出会った瞬間なのかなと改めて思いました。
現在までの研究内容
「スクールカースト」とは学級内の友人グループ(仲良しグループやイツメンなどと呼ばれたりもします)に上下関係ができてしまう現象のことで,ネットや書籍にもよく現れるトピックです。しかし,中学生など生徒を対象とした実証的な研究が少ないということが課題でした。そこで私はこれまで,中学生を協力者とする複数の大規模な質問紙調査から「スクールカースト」と学校適応やいじめについて研究していきました。例えば,学級によって主観的な所属グループの地位と学校適応感の関連性が弱まることや,主観的な所属グループの地位といじめ被害は有意に関連しますが,関連の程度はかなり弱く,また,いじめ加害とは有意に関連しないことなどを明らかにしてきました。現在までの研究から,「スクールカースト」の問題はいじめといった問題行動よりも,学校適応感などの学校に対する楽しさに結びつくのではないかと思われます。研究の課題点は残されているものの,徐々に「スクールカースト」と生徒の学校生活の関係性が明らかになってきたのではないかと思います。
今後の展望
今後の展望としては「スクールカースト」研究について縦断調査を行うことや,学校段階で比較することをやってみたいですが,いじめや道徳といったトピックにも関心があるので,広く学校や思春期に関して,ときめきを感じられるような研究をしたいです。そして,これまでの私の研究など,学校を対象とする研究は現場の先生方や生徒の皆さんのご協力なしには成り立ちませんので,これからも学校の皆様に少しでも恩返しができるように気持ちを緩めず研究を続けたいと思います。最後に,広報委員の先生方をはじめ,このような機会を与えてくださいました日本パーソナリティ心理学会の皆様に感謝申し上げます。