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喜入 暁(大阪経済法科大学法学部)

 第47回は,若手研究者の喜入 暁先生にご自身の研究についてご紹介いただきます。喜入先生は現在,大阪経済法科大学法学部に所属され,Dark Triadとパートナー暴力に関するご研究を進められています。ここでは,喜入先生がご研究を始めたきっかけやこれまでに取り組まれてきたご研究の内容,今後の展望についてご説明いただきました。

ヒトの本質を配偶戦略から明らかにする

喜入 暁

研究を始めたきっかけ

現在でこそダークパーソナリティを中心に研究を行っていますが,もともとの興味は古典的な社会心理学系の鮮やかな研究手法でした。ディセプションを効果的に用いて検証されてきた,認知的不協和,同調,情動の発生などにかかわる理論の検証からもわかる通り,社会心理学的実験手法は多くの直観に反する事象を明らかにしてきました(もちろん,現在では再現性に関する問題も指摘されていますが)。私はこのような研究プロセスそのものにカタルシスを得ましたが,特に興味を持ったのは吊り橋実験(Dutton & Aron, 1974)やコンピュータデート実験(Walster et al., 1966)などの恋愛にかかわる実験でした。そこから顔の魅力や身体的魅力へと興味が派生したことで,進化心理学的アプローチに出会うとともに「配偶戦略」という研究テーマの興味深さに気づかされました。おそらく,この時期のこのようなことが本格的に研究の道へ進もうと考えたきっかけとなったのだろうと思います。

現在の研究の状況

大きな研究テーマは配偶戦略ですが,扱う内容は必ずしも一貫しているわけではありませんでした。これまでの研究では身体的魅力,特に脚の長さをはじめとする身体のパーツがどのように魅力に影響を及ぼすのかを研究してきました。しかし,これらはいずれもヒトの一般的な傾向を明らかにするものです。一方で,ヒト(だけではなく他の生物も含む)には無視できない個人差があります。そして,Buss (2009) の言葉を借りれば,その個人差こそパートナー選択の基準になります。そして,これらの個人差には遺伝と環境がそれぞれ影響するということが明らかにされています。このような背景から,パーソナリティと配偶戦略に興味を持ち,そのようなパーソナリティの中でもDark Triad,すなわち,マキャベリアニズム,ナルシシズム,サイコパシーからなり,冷淡さと他者操作性を核とする社会的に望ましくないとされるパーソナリティ群に興味を持ちました。
Dark Triadの配偶は,短期的なパートナー関係に傾倒し,一般社会という枠組みからは忌避されがちです。しかし,社会的な価値観を超え,進化心理学的な観点からこのパーソナリティとパートナー選択に着目すると,さまざまな興味深い側面が浮き彫りになり,それらは現代社会においても実は有利な側面を持つことが指摘されてきました。また,直接的に配偶に結びつくわけではないものの,現代社会において利益追求や友人選択,協力などあらゆる領域で強力な力を発揮しうる可能性が指摘されています。
紆余曲折ありつつ,現状ではパートナー暴力とDark Triadを扱い,その進化的基盤として特に生活史理論に依拠した研究を進めています。具体的には,パートナー暴力を含む暴力行為および反社会行動の進化的適応機能,そのような行動傾向に影響するDark Triadの心理・行動メカニズム,それらが生活史戦略としてどのように統合されうるのか,などに着目しています。

今後の研究

配偶戦略という研究テーマは広く,すべてが解明されうるのかどうかさえ分かりません。ですが,その中で個々の現象およびその原因であると思われるものは確実に明らかになっています。私の今後の研究も配偶戦略を中心的なテーマとし,具体的な事象やその原因を一つずつ明らかにしていきたいと考えています。そのために,顕在化しているパーソナリティや行動,身体的特徴にのみアプローチするのではなく,それらを規定する様々な生物学的基盤や,それら生物学的基盤同士の関連など,学際的なアプローチが必要になると思います。たとえば,身体的特徴とパーソナリティには同一遺伝子が影響しているのか,そのような遺伝子は生物学的機序も共通して説明するのか,そしてそれらは配偶にどのようにかかわるのか,などが考えられます。同時に,遺伝子による効果検証だけではなく,それらの遺伝子は社会という環境の中でどのような働きをするのか,またそのフレキシブルな働きの根底に想定される進化的基盤がどのように維持されてきたのかといった面にもアプローチする必要があるかと思います。
Dark Triadや生活史理論は,比較的新しいものです。とはいえ,Dark Triadを構成する3要素に関する個別の研究は以前から精力的に行われてきましたし,生活史理論は種間差を説明する理論として生物学にかかわる領域では常識的な理論です。このような現状に鑑みると,心理学は他の研究分野や組織と連携し,まだまだ発展の余地が残されているように思います。今後の研究では,単独の研究者ではなく多様な分野の研究者の協力によってなし得る学際的な研究が必要になってくるように思います。

最後に

この度は貴重なご機会をいただき,大変光栄に思います。お声がけくださった日本パーソナリティ心理学会広報委員会の先生方をはじめ,関係者の皆様には心より御礼申し上げます。