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浅山慧(筑波大学大学院人間総合科学学術院)

 第55回は,若手研究者の浅山慧先生に,ご自身の研究についてご紹介いただきます。浅山先生は現在,筑波大学大学院人間総合科学学術院にご所属され,主に時間的拡張自己と動機づけに関する研究を進められています。今回は,浅山先生が研究を始められたきっかけや,現在の研究内容,今後の展望についてご執筆頂きました。

時間的拡張自己と動機づけに関する研究

浅山 慧

現在の研究のきっかけ

 私の研究関心の中心は,「自分とは何か」という問題に対して人がどのように対処するのか,という点にあります。このような問題は,特に青年期のアイデンティティ発達における課題として指摘されており,私自身,大学生の時にこの問題に直面しました。「自分とは何か」という私の問いはすなわち,「自分」を「何」に同一化するのかというアイデンティティに関する問いだったわけですが,それは「今ここ」の自己だけの問題ではありません。「自分」は過去の経験を通して形成された存在として認識され,さらにそれを「何か」に同一化しようとする行為は未来に向けたものであると言えます。「自分とは何か」という問いやそれに関連した現象について,このような時間的拡張自己(temporally extended self)の観点から検討することに興味を感じたのが,現在の研究のきっかけなのではないかと思います。

現在の研究の内容

 「自分とは何か」という問題が青年期において表面化しやすい要因として,進路選択があると考えられます。特に高校生においては,限られた時間や情報の中で「自分は何になるのか」を熟考し,決断することが求められます。そして,そこには多くの場合,学業が関連してきます。高等学校ではキャリア教育の一環として,未来を意識させることで学習動機づけを高めるための支援が行われていますが,その効果については十分に明らかにされてきませんでした。そこで,私は卒業後の進路が多様な高校の生徒を対象に質問紙実験を実施しました。その結果,その効果は複数の要因によって調整されるものの,「何になりたいか」を意識することが学習動機づけの向上に有効であることが明らかになりました。この結果は,「自分は何になるのか」を意識する機会を青年に提供することの教育的意義を示すものであると言えます。

今後の展望

 「自分」というものは過去や未来の自己も含めて認識されるものですが,一方で,過去や未来の自己が「自分」にどの程度結びついているかは,個人によって異なります。私は今,「現在の研究の内容」で紹介したような動機づけに関する研究の他に,過去・現在・未来の自己が同一の存在としてつながっているという感覚,すなわち自己連続性(self-continuity)についての研究に取り組んでいます。自己連続性に関する研究は様々な文脈で行われており,自己制御や精神的健康に影響を及ぼすことが示されるなど,自己の機能において重要な役割を担っていることが明らかにされています。一方で,自己連続性という抽象的な概念が,具体的にどのような要素や側面によって構成されているのかという点については,まだあまり検討されていません。そこで私は,自己連続性がどのような要素によって構成されており,それらが自己としてどのように統合的に機能するのかを明らかにしていきたいと考えています。

最後に

 このような貴重な機会を与えてくださいました日本パーソナリティ心理学会の広報委員の先生方に,心より感謝申し上げます。