現在の研究のきっかけ
高校生の頃から,心理学を研究するために,少なくとも大学院には行こうと決めていました。アタッチメント理論に関心を持ったのには,大学生の時に児童養護施設で非常勤職員として働いていたことが大きく影響しています。様々な理由で,親と一緒に生活できない子どもと,そのような子どもを支援する人の話を聞くうちに,アタッチメントに興味を持ったと記憶しています。また,尊敬している3学年上の高校の先輩が大学院でアタッチメント理論を研究していると伺ったことも,一つのきっかけでした。博士論文を執筆するまでの研究は,アタッチメント理論におけるケアギビングについて理論的な整理や幾つかの調査を行ったものでした。ここでのケアギビングは,特に,アタッチメント行動(例:怖いから助けて欲しいと近寄ってくる)に対する行動(例:よしよし,とハグして慰めてあげる)のことを指します。主に質問紙によって,個人のケアギビング行動傾向を測定し,その発達と対人関係における機能についてまとめました。すでにある程度研究が蓄積されている領域のなかで,指導教員と相談しながら,なんとか独自性を示しうる着眼点として見つけ出したのが,そのテーマでした。
現在の研究の内容
上述した,アタッチメント理論におけるケアギビングに関する研究は主に質問紙法に依拠してきました。アタッチメント理論のことを知っている方はご存知だと思いますが,質問紙を用いてアタッチメントスタイルを測定する研究と,観察やインタビューなどの「伝統的な」手法を用いる研究の間には,深い隔たりがあります。質問紙法を用いてアタッチメントの研究をすることに価値がないとはゆめゆめ思っていませんが,メジャーリーグに挑戦するような気持ちで,現在は,後者の手法を用いた研究に移行しようと準備しています。現在までにアダルトアタッチメントインタビュー(AAI)とストレンジシチュエーション法(SSP)のトレーニングを受け終わり,目下,信頼性テストを受けている最中です(AAIとSSPともに,2週間のトレーニングを受けた後,評定を正しくできるかどうかテストを受ける必要があります。一定の正答率を超えることで,ようやく研究で使用することが認められています。ちなみにAAIのテストに合格するには最短でも1年半かかります。SSPのテストには期限はありません)。また,家庭における母子相互作用場面のデータから母親の敏感性を評定し,すでに分類されたアタッチメントタイプとの関連を見る研究も行っています。
現在は東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センターに所属しており,子どもの発達や保育実践・政策について様々な研究を行っています。そこで私は,乳幼児期の子どもの生活や発達を縦断的に調査したり,絵本の読み聞かせの効果などについて研究を行ったりしています。修論の一部で行った研究がパーソナリティ研究に掲載されたことが一度だけありますが,現在は乳幼児の発達に関する研究が中心になっています。
今後の展望
インタビューや観察を用いた研究には,相当な労力と時間を割かなければなりません。辛抱強く,コツコツとデータを積み重ねていくことになります。オンとオフを切り替えて,長い目で研究を続けていければいいなと思っています。
大学院生の頃,修士論文を出し終わった後,全てが嫌になり1ヶ月ほどひたすらロゴデザインだけをしていた時期がありました。その甲斐あってか,日本パーソナリティ心理学会の学会ロゴの公募で採用され,自分のデザインが学会ロゴとして使用されています(著作権は学会に帰属しています)。もし他の心理学系の学会でロゴを刷新する機会があるのであれば,なるべくその公募に挑戦しようというのが,今後の展望です。
最後に
このような貴重な機会を与えてくださいました日本パーソナリティ心理学会の広報委員の先生方に,心より感謝申し上げます。