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ライブラリ心理学を学ぶ6 パーソナリティと感情の心理学

(島義弘(編),2017,サイエンス社)

目次(執筆者)

第1章 パーソナリティの理論(岡田涼)
第2章 パーソナリティの測定(門田昌子)
第3章 感情と認知(野内類)
第4章 感情と動機づけ(上淵寿)
第5章 発達:パーソナリティ心理学の視点から(島義弘)
第6章 発達:感情心理学の視点から(石井佑可子)
第7章 対人関係:パーソナリティ心理学の視点から(本田周二)
第8章 対人関係:感情心理学の視点から(村上達也)
第9章 適応・健康:パーソナリティ心理学の視点から(友野隆成)
第10章 適応・健康:感情心理学の視点から(長谷川晃)

 

 本書はサイエンス社が初学者向けに発刊している「ライブラリ心理学を学ぶ」シリーズ第6巻であり,パーソナリティ心理学および感情心理学をテーマにしている。初学者向けということもあり,各章のページ数は少なく重要な概念・先行研究の紹介に重点を置いた解説がなされている。各テーマについては,従来の教科書にみられるような古典的な研究から最新の研究までを幅広くレビューし,初学者に配慮して論争や見解の対立については込み入った議論を避けて書かれている。また,教科書として用語の統一には気を配っており,実際には明確に定義が異なる「感情」,「情動」などもわかりやすさを優先して表現されている。そして,各章の末尾には復習問題と参考図書が挙げられており,復習問題で章の内容を再度確認しながらより理解を深めることができるような仕様になっている。
 第1章から第4章までは,パーソナリティおよび感情に関する総説で,それぞれの領域における研究の流れと主要な概念・トピックを扱っている。第1章では,パーソナリティ理論についてその歴史と主要な研究がポイントをおさえてわかりやすく紹介されている。章末のコラムでは卑近な例も挙げられており,パーソナリティと行動傾向との関連について理解しやすい。第2章では,パーソナリティの測定法について主要な方法論だけでなく妥当性・信頼性の問題まで解説があり,パーソナリティの測定を考えている初学者にとって親切な設計となっている。第3章では,感情認知に関わるさまざまなモデルを説明し,感情制御や感情認知の神経メカニズムについても触れられている。第4章では,感情と動機づけについて主に動機づけ理論の概説がなされ,動機づけに伴う感情についても説明が加えられている。
 第5章・6章,第7章・8章,第9章・10章では,それぞれのテーマについてパーソナリティ心理学と感情心理学の視点をペアにして描き出している。第5章・6章では,パーソナリティと感情の「発達」についてそれぞれ双生児研究に始まる行動遺伝学からパーソナリティの生涯発達,発達の初期段階の原初的情動から感情制御・感情知性までの知見がコンパクトに整理されている。第7章・8章では,「対人関係」についてそれぞれ友人関係・恋愛関係におけるパーソナリティの働き,対人関係における感情表出・感情理解についての主要な理論が紹介されている。第9章・10章では,「適応・健康」についてそれぞれパーソナリティのポジティブ/ネガティブ次元,感情ドメインの症状を伴う精神疾患が対人・社会適応および精神的健康の観点から概説されている。このように後半の各論部分はパーソナリティ心理学と感情心理学とが対になるように配置されており,オーバーラップする部分とそうでない部分が理解しやすくなっている。パーソナリティ心理学と感情心理学を同時に学習でき,ひとつのトピックに対して多面的に理解を深めることが可能という点で,有用な一冊である。
 各章はいずれも第一線で活躍する気鋭の心理学者によって執筆されており,新時代の教科書としてあるべき一つの形であるといえるだろう。(文責:加藤仁)

・図書紹介の執筆にあたり,(株)サイエンス社のご協力を賜りました。ここに厚く御礼申し上げます。

(2017/6/1)