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カルドゥッチのパーソナリティ心理学―私たちをユニークにしているものは何か?―

(ベルナルド・J・カルドゥッチ (著),
日本パーソナリティ心理学会 (企画),
渡邊芳之・松田浩平 (監訳),
尾見康博・松田英子・小塩真司・安藤寿康・北村英哉 (編訳),
2021年,福村出版)

目次

第Ⅰ部 パーソナリティ心理学の視野と方法――パーソナリティ心理学への誘い
 第1章 パーソナリティ心理学――概観
 第2章 パーソナリティ・アセスメント――パーソナリティ測定入門
第Ⅱ部 心内的視点――力動的過程としてのパーソナリティの表出
 第3章 精神力動的視点――葛藤の解決がパーソナリティを作り上げる
 第4章 精神力動的視点への直接的反応――古典的な反応と現代的考察
 第5章 精神力動論に対する反応の拡がり――現代的な見方と考察
第Ⅲ部 特性論的視点――パーソナリティの心理学的単位と潜在的構造
 第6章 古典的特性論――パーソナリティの心理学的特性
 第7章 特性的観点の発展――現代的な考察
第Ⅳ部 生物学的視点――パーソナリティの生物学的過程
 第8章 行動遺伝学的視点――パーソナリティの生物学的単位
 第9章 生理心理学的視点――パーソナリティ研究における神経学的,および大脳皮質における検討
 第10章 進化的視点――適応的プロセスとしてのパーソナリティ
第Ⅴ部 認知的/個人内的視点――パーソナリティ過程の選択的な表出
 第11章 社会認知的視点――認知過程とパーソナリティ
 第12章 自己概念――パーソナリティの中核
 第13章 ジェンダーとパーソナリティ――自己概念研究をめぐって
 第14章 不安――すべてを包括するパーソナリティの個人内過程
※ より詳細な目次は福村出版のWebページで確認できる。

 

 この本を入手して最初の一カ月,冒頭xxv頁以降をどうしても読み進めることができなかった。その理由から記したい。
 過去のパーソナリティ心理学会の大会で,本書の原著者であるカルドゥッチ先生にお目にかかったことがある。私なんかが先生に話しかけるなんておこがましいと思いながらも,先生の寛容な雰囲気に魅力を感じ,とにかく話をしてみたいという一心で,勇気を出して突撃した。先生は柔和な笑みを浮かべながら,拙い私の英語に耳を傾け,コメントを返し,やさしく私の研究人生を応援してくださった。後日,私は先生にお礼のメールを送ろうと思った。しかし,どのようなタイミングで何を書いたら迷惑でないか,など,悶々と悩み始め,結局先送りにしてしまった。やることリストに「カルドゥッチ先生にメール」と書いたまま,機を逸し続けて数年,本書の紹介を担当できる機会に恵まれた。先生へのメールを決心する絶好の機会だった。この図書紹介が掲載されたら今度こそメールを出そう。先生との短いやりとりがその後どれだけ私の支えになっていたか,お伝えするのだ。と,意気揚々とページをめくった。そこで,既に先生がお亡くなりになっていたことを知った。
 カルドゥッチ先生は,自分自身のパーソナリティを反映させた本を書こうとなさっていたようだ。その願いは見事に叶ったといえるだろう。私はこの本を通してカルドゥッチ先生のパーソナリティの片鱗を確かに感じた。記憶の中にある先生のお人柄が,本を通して伝わってくるたびに先生が偲ばれて,どの部分から読み進めようとしても,はじめのうちは胸が詰まって進まなかったのである。そこで,私はおよそひと月,時間を置く必要があった。
 しだいに冷静に読み進められるようになると,本書の巧みな構成と内容にのめり込んだ。著者が学習や指導の助けとなることをねらってまとめただけあって,専門的な内容でありながら常に日常の延長を感じさせる書きぶりになっており,研究や授業のネタが満載であった。例えば,有名な心理学者については生い立ちがかなり丁寧に記載されているため,俄然その人が提唱した理論への興味がわく。理論はたくさんの例と共に紹介され,文献紹介や,さらに深めたいときにどこを調べたらよいかも丁寧に記載されているため,分かりやすい。各章の中の「やってみよう」という記事では,例えば,自分のテスト不安レベルを測ることができるなど,体験的な気づきを得る機会が設けられている。古典から現代まで,様々な視点から,パーソナリティ心理学に関してまとめられており,幅が広い。各章には要約や用語集がついているので,分からなくなった時はすぐに参照できる。試験勉強にも役立つだろう。このように,パーソナリティ心理学に触れ,親しみを感じてもらうための工夫が,随所にみられる。
 個人的には,解離体験をテーマに研究しているため,フロイト,ユング,エリクソン,マズローといった先人たちの理論をなぞった後の,自己概念の章 (第12章) が興味深かった。著者の切り口で体系化された自己についての研究動向と,そこに紹介されている研究手法は,非常に新鮮であり,奥深く,勉強になった。特に,自己省察を高めるために,ある道具 (日常的に簡単に手にすることのできるもの) を使った方法が紹介されていた部分では,すぐに自分でも実験してみたくなった。複数の研究で,その手法が用いられており,興味深い結果が得られているようだ。どのような道具か?それは読んでのお楽しみである。
 本書は,パーソナリティ心理学について包括的かつ体系的にまとめた本でありながら,単著であるため,一人の心理学者の中にどのような形でパーソナリティが理解され,体系化され,深められているのかがわかる。著者というフィルターを通してまとめ上げられたことで,厚みのある本でありながら,流れがあり,スムーズに内容が入って来るのだろう。内容もさることながら,パーソナリティ心理学の本そのものに,パーソナリティを感じることができるというしかけも,実に面白い。日本語訳にあたって訳者からの注が入っている部分があるが,著者と訳者の対話のようにもみえて,これも訳本ならではの魅力である。
 なお,「本に使ったお金のもとをとる」(p. xxii) ことができるように,という購入者の立場に立った著者の気合の入れ方も,飾らない物言いも,大変気持ちがいい。購入者が,より多くの価値を受け取れるように,パーソナリティ心理学の日常的な活用や応用を意識した内容としながら,大学の他の授業でも役立つように,アイデアの源泉になるように,参考書としても使いやすいように,工夫したという。その工夫は,実際に読んでいても強く感じられた。著者は,著者自身の「パーソナリティ心理学の領域に対して持っている熱意と情熱とを伝える本が書きたかった。」(p. xvii) と述べている。こうした著者の思いなどは,第一章に入る前,本書冒頭のxxv頁までの中に綴られている。学問に対する好奇心や学ぶ喜びを思い出させてくれるこの冒頭部分は,研究や授業に疲れた人たちには特に,おすすめである。
 カルドゥッチ先生はシャイネスの研究者であった。本書に出てくる最後の話題はシャイネスである。シャイな人々についての記述の中には,やけに身に覚えのあるものがあった。不安に駆られて行動を抑制するような,自分のシャイな一面が無ければ,生前のカルドゥッチ先生に感謝の気持ちを届けられたのかもしれないと思うこともある。自分はシャイな一面がある,という人は,本書の最後の方にあるシャイネスの克服にむけたヒントを読むと良いかもしれない。人の命は有限である。シャイネスを理由に機会を失うことのないようにしてほしい。
 本書を通して自らを知り,人を知り,望ましく快適な人生を歩めるように,一人でも多くの方がこの本を手に取って,活用してくださればよいと思う。レポートや研究に行き詰ったら,本書をめくってネタ探しをしてみるとよいだろう。寂しくなったら本書を開けば,そこにあたたかく,ユーモアのある著者のパーソナリティが感じられ,慰められるかもしれない。自分探しの旅に出なくても,本書が自身のユニークさを見つける手がかりになる可能性がある。辞書のように使うもよし,プレゼントにするもよし,感じ方も活用方法も手に取る経緯も,十人十色でよいのだろう。ただ,ここに書ききれない本書の魅力や面白さがあるため,まずは,是非本書と出会っていただきたい。それはこれを読んだあなた個人にしかできないことである。

 最後に,本書から著者であるカルドゥッチ先生のメッセージを,一部抜粋してお届けする。

学習者 (そして指導者) へのメッセージ――個人的な序文 (pp. xvi-xxiii) より
「…… 私が言えることは,私自身の人生はパーソナリティ心理学の研究に関わるようになって,より面白く,エキサイティングなものになったということだけである。私が感じる興奮と熱意があなたにも伝わったらよいと思う。」(Carducci, 2015 渡邊・松田監訳 2021, p. xxiii)

 

 ※ 著者カルドゥッチ先生のご冥福をお祈り申し上げます。また,翻訳に携われた先生方に敬意を表します。なお,図書紹介の執筆にあたり,(株) 福村出版のご協力を賜りましたことを,ここに厚く御礼申し上げます。

(文責:森彩乃)

(2022/2/1)