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鈴木 雅之(昭和女子大学人間社会学部心理学科)

第31回は,若手研究者の鈴木 雅之先生にご自身の研究をご紹介いただきます。鈴木先生は現在,昭和女子大学人間社会学部に所属され,学習者の受検するテストとその運用についてご研究されています。ここでは,研究を始めたきっかけや大学院に在学されていた頃の研究内容,そして現在されている研究の展望についてご説明いただきました。

テストの影響と効果的なテスト運用方法に関する研究

研究のきっかけ

私が心理学を専攻したいと思ったのは,「意識とは何か」といった問題に漠然と関心があったためでした。こうした関心から,学部時代は認知心理学ゼミに所属していましたが,一方で教職課程を履修し,教育に対する関心も強かったことから,次第に,学習や教育を巡る問題について研究をしたいと考えるようになりました。

大学院在学中の研究

テストをはじめとする評価活動は,学習と強い関わりを持ちます。たとえば,普段は家で学習をしない生徒でも,試験直前になると学習をするという人は多く,テストには学習を外発的に動機づける機能があるといえます。しかし一方で,テストが実施されることで生徒は学習を強制されていると感じ,学習内容に対する内発的動機づけを低下させてしまうということも示されています。また,たとえば英語のテストでリスニングが出題されないのであれば,リスニングのトレーニングはしないといったように,テストは学習内容や学習方法にも影響を与えます。
私は,学校内で実施されるテストがどのような機能を持つのかという問題について検討するとともに,どのようにテストを実施すれば適切な学習を促進することができるのかという問題について研究を行ってきました。そして,テスト場面でどのような動機づけを持って,どのように学習をするのかは,生徒が持つテスト観(テストの実施目的・役割に対する認識)によってある程度説明できることが示されました。また,丸暗記さえすれば解決できてしまうような問題ばかりを出題するのではなく,思考過程を問う問題や,日常生活と関連づけた問題を出題したり,結果のフィードバックをする際に評価基準と自己改善のための方策を明示したりすることで,肯定的なテスト観が形成されることが示唆されました。

現在の研究

大学院修了後は,縦断調査を行うことで,テスト観と動機づけ,学習方法の関連について,より詳細な検証を可能にしました。しかし,テスト場面における動機づけや学習方法は,テスト観だけで説明できるものではありません。たとえば,「テストはその後の学習に役立てるためのものだ」と思っていたとしても,テストに対する不安が高かったり,テスト結果に対する恥を強く感じたりした場合には,テストをその後の学習には活用しないかもしれません。そのため現在では,テスト観のような認知的要因だけでなく,感情的要因にも着目して研究を行っています。また,そもそも「どのように評価をするべきなのか」「何を評価するべきなのか」という問題にも目を向け,測定に関する研究にも取り組んでいます。さらに,何らかの評価をされる場合には,他者との比較は避けがたいため,社会的比較や競争の機能に関する研究も行っています。これらの研究を通して,教育実践に寄与する知見を提供できるよう,ますます精進したいと思います。
最後になりましたが,このような機会を与えてくださいました学会関係者の皆様に,心より御礼申し上げます。