HOME > 研究者紹介 > 解良 優基(奈良教育大学学校教育講座)

解良 優基(奈良教育大学学校教育講座)

第36回は,若手研究者の解良優基先生にご自身の研究をご紹介いただきます。解良先生は現在,奈良教育大学学校教育講座に所属され,課題価値を中心に学習動機づけについて研究されています。ここでは,研究をはじめたきっかけや現在の研究の状況,今後の研究の展望についてご説明いただきました。

学業場面における課題価値の効果と規定因についての研究

現在の研究を始めたきっかけ

私は学習動機づけという研究領域について,特に「学びに対する価値の認知」をテーマに研究を行っています。このテーマに興味をもったきっかけは,自分自身が中高生の時に「なぜ勉強するのだろう」という疑問をもっていたことに遡ります。大学に進学する場合としない場合とでは生涯賃金に〇円くらい差があり,進学するためには勉強しなくてはいけないのだと,ある先生は説明してくださったのですが,(それはそれで勉強にはなったのですが)個人的には目の前にある二次方程式や図形の問題を解くことの理由としてはあまりしっくりとこず,もやもやとしていたことを覚えています。そこで,学びの意義や価値という観点から子どもたちの学習動機づけを高める手がかりを得ることができたらと考え,現在の研究テーマに至りました。

現在の研究テーマ

動機づけには,多くの理論が存在します。その中でも,期待―価値理論という理論では,個人の学習課題への主観的な価値づけを指す概念である課題価値の重要性が強調されています。この課題価値という概念をもとに,私は現在研究を進めています。
課題価値には,複数の質の異なる側面が提案されています。その中でも,近年は特に学習内容の有用性を指す利用価値に注目が集まっています。学習内容が,学習者の身の回りの生活の中でどのように役に立っているのかを知ることで,学習者の興味を促進できると考えられます。そこで私も,教師のどのような教授行動が学習者の利用価値の認知に影響するのか,学習者が利用価値を認知することでどのような学習行動へとつながるのか,即時的・直接的な利用価値のみでなく,長期的・間接的な意味での利用価値でも効果があるのかなどといった点について,調査や実験,そして実践研究を通して検討しています。
また,最近は課題価値のうち,利用価値のようなポジティブな価値的側面のみでなく,ネガティブな価値に相当するコストという概念にも着目しています。コストとは,課題に対する負担感を指す概念であり,学習者を学習行動から回避させる要因だとされています。コストは,理論的には古くから指摘されてきたにもかかわらず,実証的にはこれまであまり注目されてきませんでした。しかし,「勉強が大切なことはわかっているけれど,その負担を考えるとしんどい…」といったように,ポジティブな価値とコストが両立することもあると思います。このような動機づけの状態が,学習者にどのような影響を及ぼすのかについても最近は興味をもっており,いくつか研究を行っています。

今後の展望

子どもたちの学習への価値の認知に影響する大きな要因として,親や教師といった子どもを取り巻く大人の影響があります。日本の親や教師は,子どもたちにとっての学習をどのように価値づけているのか,そのような価値観は,どのようなメカニズムで子どもたちに伝達するのかといった点について,教育社会学的な知見も参考にしながら調べていきたいと考えています。学びたいことや学ぶべきことはとても多いのですが,少しでも教育実践に資する知見を得られるように一歩一歩努力していくつもりです。学会や研究会等でお目にかかる機会がありましたら,ぜひご指導いただけますと幸いです。
最後になりますが,このような貴重な機会を与えてくださった学会関係者の皆様に心より御礼申し上げます。