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松本 昇(信州大学人文学部・准教授)

 第48回は,若手研究者の松本 昇先生に,ご自身の研究についてご紹介いただきます。松本先生は現在,信州大学人文学部にご所属され,主に記憶研究の方法を用いて精神疾患について解明する研究を進められています。今回は,松本先生が研究を始められたきっかけや,現在の研究内容,今後の展望についてご説明いただきました。

記憶研究によって精神疾患のメカニズムを解き明かす

研究をはじめたきっかけ

幼い頃から研究者をやりたいなあと思っていて,宇宙に行きたくて天文学者になりたかった。そんな淡い夢は捨てて,直接的には,犯罪心理学をやろうと思って大学へ入学したのが始まりです。高校にも行かずにプロファイリングの本を読んだり人狼で人の嘘を暴いたりということをしていたら興味が出てきて。で,入ってみたら大学院生それぞれに「連続殺人の杉山」「放火の石村」とか通り名がついていてカッコ良いんですよね。「これは」と思い犯罪心理学のゼミに予定通り入りました。しかし現実は甘くありません。犯罪者を対象に研究できるものだと思っていたらそんなことはなく。「これは」と思い他のことを考え始めます。そこで丹野義彦先生の『エビデンス臨床心理学』と出会って,次第に異常心理学に興味を持つようになりました。とはいえ空いた時間はどうしても麻雀をしてしまうので,研究テーマも決まらず大学4年生になってしまいました。すると,見かねたボスが「自伝的記憶の概括化やりなよ」と助け船を出してくれました。いわば与えられたテーマだったわけですが,やってみたら面白く,多分野の融合領域だったこともあって,どんどん幅が広がりました。大学院で自由な環境でやらせてもらえたことも幅の広さに繋がりました。広い意味では,人間に対する興味,そして特に平均値から逸脱した人への興味があったのだと思います。かく言う私も逸脱していると思います。

現在の研究

記憶と精神疾患の関連について幅広く研究しています。これまで扱ってきたテーマは,自伝的記憶の概括化(overgeneral autobiographical memory),侵入記憶(intrusive memory),反すう(rumination)などです。これらが何なのかご興味があれば研究室ホームページや出版物をご覧ください。最近は,無意図的想起(involuntary recall)やメタ記憶(meta-memory)に興味があります。精神疾患のメインは大うつ病とPTSDですが,最近は統合失調症や双極性障害,パーソナリティ障害にも幅を広げつつあります。これは自伝的記憶研究の先輩の受け売りですが,記憶を研究するためには,健常者を見ているだけではもちろん駄目で,精神疾患患者を対象にしても不十分。他に何が必要かというと,高齢者(と認知症)と脳損傷例です。各症例の行動的特徴と神経基盤の共通点と相違点から見えてくるものがあると思います。ですから,信州大学に新しく構えた研究室では,これらの領域横断的な研究体制が構築できるように準備を進めています。
それとも関連して,社会への貢献も意識するようになりました。異常心理学の知見をアセスメントに活用できるように,オンラインで質問紙や実験が可能な媒体を開発中です。これは数年がかりのプロジェクトですが,エビデンスベースドなアセスメントを現場で活用していただけるような工夫を盛り込もうとしています。

今後の展望

新しい技術を取り入れた研究を進めていきたいと思っています。前述したオンライン媒体もそうですが,自然言語処理や強化学習モデルを自伝的記憶研究に取り入れる試みに挑戦しています。これらは今後数年を見据えた研究ですが,より大局的には,数十年後まで見据えて何か大きな仕事ができないかということを常に頭の片隅に置いています。

最後に

研究紹介といいつつ,何ひとつとして具体的な説明をすることなくここまで来てしまいました。このように,具体的な事柄を求められているにもかかわらず抽象的なことしか報告されない現象を概括化といいます。おあとがよろしいようで。