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矢野康介(立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科・日本学術振興会特別研究員)

 第53回は、若手研究者の矢野康介先生に、ご自身の研究についてご紹介いただきます。矢野先生は現在、立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科にご所属され、主に環境感受性に関する研究を進められています。今回は、矢野先生が研究を始められたきっかけ、現在までの研究内容や今後の展望についてご説明いただきました。

環境感受性の個人差に関する研究

矢野康介写真

研究を始めたきっかけ

 私たちは生活の中で、様々な環境刺激に曝されますが、それらの要因からの影響の受けやすさは人それぞれです。このような個人差は環境感受性という枠組み/理論で表現され、海外では盛んに研究が行われています。高い環境感受性を持つ人のことをHighly Sensitive Personと呼ぶことがありますが、日本ではこちらの名称で広く認知されているように思います。
 私自身も現在の研究をはじめたきっかけは、Highly Sensitive Personという言葉を知人に教えてもらったことでした。ちょうど卒業論文のテーマをどうしようかと悩んでいた時期で、当時からお世話になっている指導教授にも関心を寄せて頂き、「それならやってみよう」と思ったのが出発点です。このテーマへの思い入れも段々と強くなり、修士論文、博士論文も環境感受性の研究を中心に執筆することにしました。

現在までの研究内容

 私のこれまでの研究では、大学生を対象に質問紙調査を行い、環境感受性が高い人、低い人のそれぞれにおいて、メンタルヘルスと関連する要因を探索的に検討したものが多いです。例えば、最近の研究では、普段のストレス対処において使用する方略について自由記述で回答してもらい、それらの方略とメンタルヘルスとの関連を、環境感受性の個人差を考慮した上で検討しました。その結果、環境感受性が高い大学生においては否定的感情をいかに効果的に制御するかが重要であり、一方、環境感受性が低い大学生では否定的感情を制御しつつも、問題の解決に向けた情報を収集することが良好なメンタルヘルスに結び付くことが示唆されました。また、心理尺度を用いた量的研究においても、同様の結果が得られました。
 これらの研究に加えて、最近では、環境感受性と様々なパーソナリティ要因との関連についても検討を行っています。

今後の展望

 上記の知見は、近年問題となっている若年層のメンタルヘルス低下の問題を解決に導くための取り組みにおいて、有益な情報になる可能性があります。しかし、環境感受性の個人差を考慮したメンタルヘルス研究は、海外を含めてもまだまだ限定的に実施されているに過ぎません。私が行ってきた研究も横断的調査が大半を占めていますので、今後は縦断的調査や実験的アプローチを用いて、環境感受性が高い人、低い人の特徴を明らかにしていきたいと考えています。
 研究の話題からは少し逸れますが、日本では近年、「環境感受性」や「Highly Sensitive Person」という言葉がメディアやSNS等で取り上げられる機会が増えてきました。当該テーマの研究に従事する者としては嬉しい限りですが、残念なことに、エビデンスに基づいていない(誤った)情報を目にすることも多々あります。このような状況もあり、今後は「環境感受性」「Highly Sensitive Person」関連の適切な情報の発信にも努めていきたいと考えています。
 末筆となりますが、貴重な機会を与えてくださいました、日本パーソナリティ心理学会の皆様に心より感謝申し上げます。